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御曹司が京都大学の助手をしていて、奥さんが中学の先生をしていたんですが、石見銀山に戻らなきゃいけない。自分の家がまあ素晴らしい家でした。400年とか何とか続いている家なんですが、学校を辞めて、戻って酒屋さんをやるようになるんだけど、自分の自宅を改築しようと考えたら、3億だか2億だか忘れちゃたんだけど、その素晴らしい家だから膨大な金額がかかるわけです。まあお金持ちだから田畑かなにか売れば、それで誰かに頼んでそこの家を自分の好みに変えていくことも出来ない話ではなかった人なんですが、自分の先祖たちが自分に残してきた建物を、やはり自分の思いで作り変えたい。そうならば、3億のために田畑を売ったり、自分も借金を返す話しならば何年間かかけて、少し田畑を売ったんですが、そのお金で生活をしながらこの家を作り変えていきたいと決心をしたんだそうです。その竣工式に私が呼ばれて行きました。奥さんは、中学の先生の時に絵の担当だったんですが、その奥さんがやられた襖とか、壁なんかも土壁の所に蚊帳を自分で染めて布張りにする部屋だとか。いろんな壊れている壁の所にご主人が焼き上げた陶芸を埋め込んでほんとに言葉もでないほどの出来栄えでした。それで今まで経済ということを考えていったら、先ほど田中さんが経済の景気が悪いという話で、そういうふうに私たちがやってしまったら、景気の回復にはならないのかしらとおっしゃられていたけれど、私は今経済そのもののあり方、私たちが大工さんに頼んで作るということではなくて、1億ぐらいで実は家が出来ちゃったんですよね。大工さんが3億か4億かけたって、あれほどのすてきな家には恐らくならなかった。

それと前後してドイツのメンケルさんという、女性の環境大臣が、この12月に京都でやる環境会議の前ぶれで来られて、CO2うんぬんということで、私たちに会を持たせてくれました。その時にびっくりしたんですが、環境経済大臣なんです。もう私たちは清掃なら清掃とか、産業界なら産業界とか、消費者は消費者とか、そんな話で考える時代ではなく、三輪先生じゃないけど3つの輪がそれぞれに重なり合う話のなかで、いろいろなもう1回再構築、ガラガラポンが今必要なのかなと思っております。

 

三輪:この種の話をまとめるのは非常に至難の技でございますが、どうもありがとうございました。長らく時間を過ごして参りましたが、きっとパネリストの皆さんも会場の皆さんも話し足りなくて欲求不満の今だと思うんです。到底話しきれない内容だと思います。それで簡単にまとめというのはせん越ですけれど、やはり今日、工房文化の輪を広げるまず第1回目であった。ごみの分野で工房、工房と言い出したのは実はこの5年に過ぎません。ところで、お手元にお配りしました柳宗悦さんの「手仕事の日本」という、実はこれは昭和18年、つまり53年前に書かれた文章なんです。この文章はその本の前書きなんですが、私はこれを感動を持って読みました。「手はただ動くのではなく、いつもおくに心が控えていて、これがものを創らせたり、働きに悦びを与えたり、また道徳を守らせたりするのであります」という一文ですね。そういう社会が明治末から大正にかけて日本には、ものすごくあったんだということですね。ところが今やこれがなくなってしまっている。産業の中にはその伝統が残されていますが、我々の身の回りからはまったくなくなってしまった。だからこそ、形から心の時代に向かっている、あるいは向かって行かねばならないと私はまとめさせていただきたいと思います。

行政の縦割り横割、いろいろありますけれど、結局形はそろそろそろってきた。このプラザも大きな建物・形はあります。でもそのなかに何を埋め込んでいくか。ものを介して何を伝えていくかというところがやはりポイントになっていくかと思います。それから先ほど田中さんが言われました経済との絡みで言いましたら、こちらからその経済にものを申していく時代がやがてやって来ないといけないのではないかと思います。たとえば、木工の方のお話を聞きますと、最近は集成材ばかりになってきまして、リサイクルをしようにも一遍切ってしまたらもうぼろぼろに崩れてしまう。その様な物は再生に値しないわけですね。それで長年使われてきた物がまたリサイクルされるような、そんな材質で作ってほしいとか、あるいは家電製品にしても、家電を直す隙もないほどマイコン化してしまって、ましてやPL法が構えていて、再生したものを販売したら責任が問われるとか、やはり、どうも我々消費者が追い込まれてきている。いい意味で自分たちで好き勝手なことができないように追い込まれている時代にきている。先ほど素晴らしいお家の話が出てきましたが、私の友人も沖縄でこつこつとゼロから家を造っています。今年はこの部屋が出来ましたよと1年1年拡張されてるんです。そういう発想というのが日本から全く完膚なきまでに消え去ってしまっている現状ですね。ですから100年かけて失ってきたものを、これから100年かけて作り出していくという、そのような時代に我々皆が直面しているんではないかと考えておりますので、どうぞこれを第1回目としていただきまして、実は準備会でいつも話していましたのは、オリンピックをしたい。工房文化のオリンピックをしたい。ですから、4年に1回、あるいは5年に1回また集まっていただいて、これから話しを盛り上げていくその第1回目の今日であった、というふうにまとめさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

 

 

 

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