実際、本年7月2日に東京湾岸で起きたダイアモンドグレース号事故では、神奈川、東京、千葉県の各支部が海岸調査を組織し、7月5-6日を中心に他NGOと協力して立ち入り可能な海岸のほぼ全域にわたる調査を行った(図3)。
しかし、油事故による鳥類の被害が起こる可能性のある地域に、調査を担えるボランティアが十分居住しているとは限らない。本年4月に対馬海峡で起こった第3オソン号事故では、油の漂着した長崎県対馬には数名の会員しか居住しておらず、本土からボランテイアの派遣もできなかったため、海岸調査には日本野鳥の会本部職員2名を2日間派遣した。
長崎県や沖縄県といった、海岸線が長い、あるいは島嶼の多い都道府県の場合、見込まれるボランティアの数と必要な人材・人手とのギャップを解消する方法をあらかじめ想定しておく必要があろう。
またバードウォッチャーだけでなく、地域の自然観察施設、アマチュア研究者やバンダーの組織・個人等の調査可能な人材を登録し、責任体制を作るなどの措置が不可欠と考えられる。
(4)今後の体制作り
今回の事故の教訓として、事故が起こる前の平時からの準備の重要性がたびたび指摘されている。影響評価のための鳥類海岸線調査においてもこれは同様である。次のような準備が必要と思われる。
・実行に関わる人的な連絡と責任体制(行政・NGO双方)
・連絡体制(電話、FAX、電子メール、情報センター)
・海岸線地図の準備と調査可能な場所、脆弱海岸の把握
・トレーニング
・死体の保管場所(冷凍庫)の確保
・鳥類海岸線調査の事前の訓練と平時の調査
これらは地方行政の応援あるいは統括を得て実現するものと考えられる。すでに一部の都道府県では、自然保護セクションと地域NGOの間の検討が始まっているが、上のような視点での体制の準備が望まれる。また、ひとつの都道府県を越える広域的な事故の場合は、さらに全体の調整役が必要とされる。これをどのように担っていくかは、NGOと行政に共通の課題と考えられる。