お わ り に
30年ほど前からフランスの家族は大きく変貌した。個人が何よりも大切になり、家庭はその背後に隠れるようになったように見える。婚姻の減少、離婚の増加、同棲と婚外出生の増加、片親家庭の増加などというデータを並べると、いかにもフランスの家庭は危機に直面しているかのような感じを受けるかも知れない。しかし今のフランス社会には、こうした伝統的な家族に反するあり方に対する偏見はほとんどないように見える。少なくとも自由結婚という形態や、結婚や同棲関係を解消した経験があることに対する社会的プレッシャーは全くないといえるだろう。婚外出生率などという数値を取り立てて書くことさえ無意味であるように感じる。フランスにおける家族の変貌は、個人の生き方が尊重されるようになったため起こったのだ、と肯定的に受け取るべきではないだろうか。しかし男女カップルの関係が不安定になったために、片親と離れて生活しなければならない子どもを増大させることになってしまったことは否定できない。
こうした家族の変貌に対応すべく、フランスの家族政策は改善されてきた。しかし家族給付制度は余りにも複雑なものになっているように見える。家族手当金庫では、家族給付受給家庭に配付する季刊誌『家族の生活』や『あなたの家族給付ガイドブック』で、家族給付についての詳しい説明をしている。ガイドブック(1997年11月発行で28頁の小冊子)を眺めると、ユーモラスな絵も入って分かりやすいように工夫はされているものの、給付によっては支給条件が非常に複雑である。今年度版には、どの手当と、どの手当は重複して受給できるか否かを示した一覧表も加わった。本稿で紹介したアンケート調査結果で、家族給付システムを簡略化して欲しいという人が半数程度しかいなかったのは意外である。ある家族手当給付金庫県支部長にインタビューした時には、「給付システムは複雑なので」と逃げられてしまった質問もあったのである。少なくとも彼女は、システムは簡略にされなければならないと主張していた。家族手当金庫の事務は、さぞ複雑であろうと想像できる。手当ごとに支給条件が異なり、世帯所得が条件を満たしているか、共働きカップルであるか、子どもが何人いるか、何人目の子どもであるか、子どもの誕生日がいつ来るか、必要証明書類は整っているかなどをチェックしなければならないからである。
それにしてもフランスの家族政策には、実にきめ細かい配慮が見られる。片親家庭への援助は当然としても、職業と子育ての両立問題、養子を迎える家庭、最近多くなった高齢出産に併発する多胎出産にまで配慮がなされているのである。しかし一般のフランス人に、フランスの家族給付は充実しているので日本人には羨ましがられると言うと、腑に落ちない顔をされる。彼らには種々の家族給付が存在するのは余りにも当然なことであり、しかも自分たちの受け取る給付額は子どもを育てる