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1つは,それまでバタフライのルールでは,“レース中からだはうつぶせにして,両肩は水面に平行に保つこと”としか規定されていなかったが,これではターンの時にやや斜めにけり出してけのびしてしまった場合や,スタートの際,微妙に肩の高さが水平位置を崩した場合などの判断は,困難となってしまう。したがって,このような事態にはっきりと対処できるように,“折返しを行っている時を除き身体をうつぶせにする”と明文化しており,さらに折返しの終わりを定義するため,“腕のかき始めから両肩は水面と平行で,これを維持すること”と変更されている。

2つめには,両足の動作に関してであり,“すべて同時にかつ左右対称に”,“両脚・両足は垂直同時に行われる”となっていたものが,両脚・両足の動作は同時に行われなければならないものの,“同じ高さになる必要はない”と改正にされている。

3つめは,タッチの仕方についてである。以前は“両手で左右同じ高さで同時に”行わなければならなかったものが,現行は“両手同時に、かつ両肩を水面に平行に保って”いれば,左右同じ高さでなくても失格にはならないルールに変更された。これはタッチの見にくさをカバーためという理由もあろうが,根本的には片手タッチは不可であるということを明文化したはずであろうから,両手で同時にタッチすることという原則に沿った内容に改正された程度に過ぎない。

今後近い将来に予測される大きな改正としては,潜水泳法に対する潜水距離の規制が上げられる。現行では“スタートおよび折返しの後、水面に浮き上がるため、脚は水面下に回数に制限なく蹴ることが許される”とあるが,背泳ぎの例から推察すると,“スタートおよび折返しの後、壁より15mまで身体は完全に水没してもよい。壁より15mまでならば脚は水面下に回数に制限なく蹴ることが許される”といった具合に改正されることが予測される。

 

7. おわりに

 

以上,バタフライの発生から現在に至るまでの記録,技術,ルールの変遷などを述べてきた。いつの時代でも向上するために大切なことは,考えること,知恵を出すこと,それを達成させようとする強い意志とひたむきな努力をすること等々である。何かモーションを起こさないことには,新たな結果は生まれない。平泳ぎから派生したバタフライも,腕の抵抗を軽減させるには…,キックの抵抗を軽減させるには…,平泳ぎの選手やコーチが記録の向上を目指してあれこれ創意工夫した結果の新産物である。

1954年に独立して,やっと40数年が経過したばかりのバタフライではあるが,1970年代までの短かい歴史の中で著しい記録の伸びを示し,クロールに次ぐ速い記録で泳げるようになったものの,1980年代以降の記録の伸びは停滞気味といってよい。これを打破するためにも,バタフライの原点に戻って,新たな工夫に取り組まねばならない時期にさしかかっているのではなかろうか。

これまでの平泳ぎや背泳ぎでは,ルールの変更にともなって,また新たな技術や記録の歴史が展開されてきた。これまでバタフライでは,比較的ルール上問題が起こることはなかった。しかしながら,次期シドニーオリンピックでは,現在用いられている潜水泳法が制限されるようにルールが変更される可能性がある。他の泳法と同様,これを機会に,人々をあっといわすようなアイデアが考案され,新たなバタフライの歴史のページが開かれることを期待したい。ここでまとめた稚な総説が,そのようなアイデアのヒントにでもなれば幸甚である。最も歴史の浅いバタフライにおいて次の10年,20年が,どのようなドラマを展開するのか,1ファンとして見届けたい。

 

 

 

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