4-C.日本人の世界記録保持者
日本人の世界記録達成者は過去に4名いる(短水路世界記録を含む)。1人は,男子200mバタフライの初代世界記録保持者であり,現代バタフライの創始者ともいわれる長沢二郎選手である。長沢選手は1954年に続き,1956年にももう1回新記録を樹立した。
1954年に樹立された長沢選手の世界記録を破ったのは,日本人として2人目の世界記録保持者であり,メルボルンオリンピックで2位に入賞した石本隆選手である。石本選手は200mのみならず,100mにおいても世界記録を樹立しており,1957年から58年にかけて,実に5回にわたって世界新記録を更新し続けた。石本選手の樹立1分0秒1という記録は,「1分の壁突破目前の大記録」とまでいわれた。
女子では,青木まゆみ選手が,1972年のミュンヘンオリンピックを1か月後に控えた日本選手権と,オリンピック決勝の2度にわたって世界新記録を樹立している。特に,ミュンヘンオリンピックでの新記録は,その前日世界記録を樹立したA・ギャルマチ(ハンガリー)選手に,勝って優勝した価値ある新記録であった。
また,記憶に新しいところでは,潜水泳法を用いる青山綾里選手が,1997年に短水路世界新記録を樹立している。
4-d.歴史に残るスーパースター達
初代世界記録保持者で欧州の雄といわれたG.ツンベク選手,そのツンベク選手を抑えメルボルンオリンピックで銀メダルを獲得した石本選手をはじめ,L.ラーソン選手,M.トロイ選手,C.ロビー選手,K.ベリー選手など,バタフライの歴史が始まって以来,何人もの選手が,数年間わたり幾度となく世界記録を更新している。しかしながら,やはり記憶に残り続ける歴史上のスイマーという点では,まず“水の申し子”とまでいわれたM.スピッツ選手(アメリカ)(図4)が上げられるであろう。実に,スピッツ選手は,1967年から72年までの5年間で,100mにおいて10回,200mにおいては8回も世界新記録を樹立し,記録にして100mで約2.8秒,200mで約7秒も短縮した。そして,彼を歴史上の人物として名を残すに至ったのが,1972年のミュンヘンオリンピックでの大活躍である。前回のメキシコオリンピックでの悔しさを晴らすが如く臨んだその大会であったが,100mと200mの両バタフライ種目で優勝したにとどまらず,100m,200m自由形の個人4種目に加え,400mリレー,800mリレー,400mメドレーリレーの合計7種目で優勝し,しかもその全種目が世界新記録だったのである。1回のオリンピックで7個の金メダルを首に下げた水泳選手は,歴史上このスピッツ選手しかいない。ちなみに,スピッツ選手が最後に樹立した世界記録が,このミュンヘンオリンピックで出した記録であるが,この記録はその後,100mで5年間,200mでも4年間も破られなかった。