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フィールドワークフェローシップ国内研修に参加して

 

本庄 太朗(筑波大学医学専門学群3年)

僕はこれまで海外医療協力に漠然とした憧れを持っていたが、将来医師として働くならばどんな仕事をするのかをはっきりイメージすることができなかった。今回、このフィールドワークフェローシップに参加して少しそのイメージが見えたように思う。初日のプログラムは新宿の国際医療センターで行われた。内容は国際医療に第一線で携わってこられた先生方のお話とディスカッションが中心であった。

今回の企画委員長である大谷先生は、Primary Health Careこそが医療の中で人間の平等を守るものであるということ、国際医療協力においては多様な価値観の中で謙虚に考え、行動するべきであることを強調された。苗村先生は、国際交流はSmileでOKだが、国際協力には何らかの技術や知識というWeaponが必要だとおっしゃっていた。紀伊國先生は外国の家庭医のシステムを紹介しながら、日本における医師のGeneralityはどこまで求められるのかと僕たちに問い掛けた。アフリカの名誉村長でもある辻先生のお話は、その経験をユーモアを交えて紹介された。「絶対に『してあげた』という気持ちを持たないように。たまたま縁あって手伝いをしただけのこと」という言葉が心に残っている。他にも結核予防会長の島尾先生や厚生省の先生方のお話があった。国際協力の理念からその現実の問題、さらにはリクルートのお話も出る幅広いプログラムであった。

充実した初日の夕方は懇親会で、何人もの方たちと個別にお話することができた。将来のフィールドを海外に求める同じ医学生の元気に圧倒され、また決して楽ではない海外での仕事を楽しそうに語る先生方の語りに引き込まれ、美味しい料理の箸をたびたびとめては笑い、質問し、夢を語る素敵なひとときであった。

二日目は場所を国立療養所多磨全生園に移して、はじめにハンセン病の現状について講義があったあと、園内を見学した。

それは不思議な体験だった。あたたかな春の日、静かな園内を歩いている限り、ここに住む人たちがかつて受けたらいによる差別の苦しみは感じられない。だがいまだに苦しむ患者さんの姿、その一生のほとんどをここですごすしかなかった人々の無念を想像するだけで、知らなかったことが罪に思えてくる。その思いは午後にハンセン病資料館を見学することで一層強まった。不自由な手を示しながら館内を案内してくださった患者さんの目は、過去から僕たちにじっと向けられていたように思う。

結核研究所での講義を受けて、日程のすべてが終了しても皆去りがたく、心残りのようであった。僕を含めた国内組の数人は、さらに続く国外組のミーティングにも参加し、ハンセン病をテーマにした映画を見た。夜は更けて、この2日間のさまざまな思いがぼんやりと僕の頭を巡っていった。

翌日、成田空港へ向かう国外組の電車をホームで見送った。

2日間とは思えない濃い内容の研修だった。お世話になりました先生方に心から感謝申し上げます。

 

国内研修を終えての感想

 

下河辺 晶(京都府立医科大学4年)

2日間という短い期間でしたが、この研修に参加できて非常に良かったと思っています。以前から国際的な仕事の興味を持っており、この機会を逃すまいと応募しました。興味を持っていたといっても、国際協力はなんたるかなども知らず、その必要性・必然性など全くといってよいほど知りませんでした。ただ漠然としたイメージだけしか持っていませんでした。

ところが、2日間の講演を通して、なぜ国際協力なのか、何が国際協力に必要なのかということがはっきりしてきました。今までの認識不足がどれほどであったことか!それは言い換えれば、大学に国際保健協力について教えてくれる人がいないに等しく、またそれについて認識ある学生が少ないということを示しているのでした。日本にはまだ僻地医療において問題がたくさんありますが、講演を通じて思ったのは、国際保健協力が必ずしも日本の国内医療問題とかけはなれた問題ではないということです。それぞれに携わる者の定着の問題を取ってみても共通点が存在することが分かります。いままでとりあえず海外へとドンキホーテ的に考えてきた自分でしたが、ここで一度立ち止まり足元を振り返りそれから海のむこうを見渡すのも悪くないと思いました。さらに印象的であったのは全生園の見学でした。神谷忘美子氏の著書を通して”らい”という病気のことは知っていましたが、全生園を訪れてはじめて”らい”の歴史を垣間見れたような気がします。《百聞は一見にしかず》とはこういうことを言うのでしょう。研修の最後の日の夜に他のメンバーと見たビデオ(「砂の器」でした)がまた印象的でした。この差別の歴史に医師も加担していたのかと思うと、将来医師になる自分に大きな課題が課せられたような気がします。もっと多くの学生がこのように全生園を訪れるなりして、病気と差別そして医師の責任について考えることができたらと思います。

最後にこの研修を通していろいろな大学からの学生とお話できました。この交流を通じて得たものを大切にし、謙虚にこれからの大学生活に活かしていきたいと思います。

 

国際保健協力フィールドワークフェローシップに参加して

 

藍原 由紀(国際医療福祉大学3年)

今回の研修に参加して、実際に国際医療協力の現場でご活躍なさっている先生方の話を聞くことができたのはとても貴重な体験でした。このような機会を与えて下さったことに心から感謝しています。栃木県の北の片隅の大学で朝から夕方まで講義そして部活という毎日を過ごしていたので、全国からいろいろな考え方を持つ学生が集まって交流するという企画はとても魅力的でした。

国際医療協力という言葉には、崇高な志を持つ人が個人的に行う活動という漠然としたイメージがありましたが、決してそれだけでは成り立たないことがわかりました。体制を整備して組織的に継続して行うこと、更に第三者がその活動を評価できることが大切である、という話は特に印象に残りました。

2日目に訪問した多磨全生園とハンセン病資料館では、特定の疾患に対する差別や偏見について考えさせられました。患者が受ける不当な差別をなくすためには医療従事者に対する教育が重要だと思います。単なる知識の伝達だけでなく、実際に患者さんにあって話を聞く機会をもっと増やすべきではないでしょうか。病気と向かい合って強く生き抜いている一人一人の人生を知ることがその疾患を理解することにつながるような気がしました。

2日間という短い時間でしたが密度の濃い充実した研修でした。これからは専門分野を持つこと、語学力をつけること、チームの一員として働くことができることを目標に、残り2年間の大学生活を有意義に過ごしたいと思います。

 

 

 

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