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?. オリエンタルミンドロにおける日本住血吸虫症の疫学調査

 

松本 淳

松田 肇

 

1. ヒトおよび各種保虫宿主の感染状況の把握

 

日本住血吸虫症のコントロール対策を実施する前の基礎的なデータを集積する目的で、1995年の調査に引き続いて本年度も各種動物の感染状況を調べた。日本住血吸虫は宿主域が広く、ヒトの他にも家畜や野生動物などの哺乳類も保虫宿主となり得るため、哺乳動物の感染状況も明らかにしておく必要がある。本年度は、家畜としてイヌと水牛、野生動物としてラットを調査の対象とした。これらに加えて、各地域の小学校児童の検便をおこない、各動物の感染率と比較した。

今回対象とした地域は、日本住血吸虫症の浸淫地であるフィリピン・オリエンタルミンドロ州のナウハン湖西岸の3村落、すなわち San Pedro、San Narciso および Malabo である。この地域は熱帯雨林気候に属しており、気温は一年を通じて18℃以上、平均の年間降水量は2000mm程度と多く、中間宿主貝である Oncomelania quadrasi の生息に好適な気候条件となっている。

各地域の小学校児童の糞便は、各小学校で回収を依頼し、イヌと水牛は各地域を巡回しながら野外に落ちている糞便を回収した。ラットについては、剖検によって虫体および本症に特徴的な病変を検出すると共に、直腸内の糞便を回収した。糞便検体はいずれもホルマリン・ディタージェント法により処理した。この方法には、?遠心機などの電気機器は一切不要であり、停電による影響がない。?同一の検体を繰り返し検査できる。?検体の長期保存が可能である。などの利点があり、とりわけ電力の供給が不安定な地域での検体処理には有用な方法である。検体処理後の最終産物(沈渣)は獨協医科大学医動物学教室に持ち帰り鏡検した。

検査の結果を表1および図1に示した。いずれの保虫宿主も Malabo 地区で高い感染率であり、それと比較すれば、San PedroとSan Narcisoでは低い感染率であった。ヒトの検体は全て小学校児童のものであったが、その虫卵陽性率が7.7-14.7%とかなり高い値を示したことは注目すべきである。日本住血吸虫症では、患者の糞便中に排出される虫卵の数が少ないために、糞便検査では偽陰性の例も多い。このことを考えると、小学生をはじめとして今回の調査地区の住民が感染する機会がかなり多いことが推測された。

一方、ヒト以外の保虫宿主の感染率の傾向が、ヒトのものとほぼ一致することが明らかとなった。これらヒト以外の宿主もヒトの患者と同様に虫卵を排出して日本住血吸虫の生活環の維持に関与する。したがって、本症を完全に撲滅するためには、ヒトだけではなく動物の

 

 

 

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