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治管区とそれが帰属する地方(クライ)や州とのあいだの法的紛争が発生することになる。そうした事情を考慮してか、このコンメンタールは、このような特殊な構成主体相互間の関係にかかわる連邦法の制定を強く求めている。また、別のコンメンタールによれば、自治管区は、地方(クライ)または州に編入するかどうかにかかわりなく、連邦構成主体として他の構成主体と同権であり、州または地方への編入は、ロシア連邦の領土の一部をなすその領域の吸収を意味していないとされる(6)。

こうした問題に関わる憲法裁判所の判決には二つの事例が見られる。?チュメニ州憲章の一連の規定の合意性審査事件の審理の延期決定(1996.7.17)と、?州および地方への自治管区の編入について定めるロシア憲法66条の解釈に関する決定(1997.7.14)である。

 

(イ) 構成主体の憲法・憲章および選挙法に関する事例

 

次いで問題となるのは、構成主体の憲法・憲章または法律の合憲性審査にかかわる事件である。「憲法戦争」「法律戦争」というのは、連邦の憲法や法律と、構成主体の憲法・憲章や法律が矛盾し、そのいずれが当該地域で優先して適用されるかということをめぐって争われる状況をさす。98年憲法が、主権共和国の自発的結合としての条約による連邦国家ではなく、単一の憲法によって連邦の構成主体の地位を規定するいわゆる「憲法による連邦制」をとったことから、連邦の憲法と法律が構成主体のそれらに優越することは論理的に明らかであるため、各構成主体はそれぞれの憲法・憲章の見直しをせまられている。憲法裁判所でこの点をめぐって争おうとする動きは現在はない。しかし、連邦憲法が構成主体のレベルでもその実現を要請している憲法体制の原則、たとえば権力分立や法の下の平等などについて、構成主体の憲法や憲章、さらには選挙法などにおいて、矛盾なしとしないようである。

憲法裁判所で扱われたこうした問題に関する事件が、かなりの数にのぼることからもそれをうかがうことができる。一々事例をあげないが、憲法または憲章の合憲性審査事件は、先のチュメニ州憲章を含めて、アルタイ地方憲章、チタ州憲章、ハカシア共和国憲法、タンボフ州憲章の5件についてあり、構成主体の選挙法に関する事件も、チュヴァシ共和国、北オセチア共和国、カリーニングラード州などかなり多く、生成途上または過渡期の現象として興味深い。一般選挙法ではない議員のリコール手続法の合憲性審査については、1件ではあるが、モスクワ州法にたいしロシア連邦最高裁判所が提訴した事件が関心を呼ぶ。

 

 

 

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