現行制度は、各個別事業を所管する中央省庁の縦割り的な管理・監督によって、それぞれの標準的行政をナショナル・ミニマムとして全国に均霑化してきた。戦後の日本社会の構築にとってこの戦略はそれなりに意義があったというべきであろう。国家的統合の視点からみれば、どの地域にいても必要な行政サービスをそれなりに享受できることの価値は強調してもしすぎることはない。しかし、豊かさを追求する生活者の視点からみれば、国家体制が整っていることは前提条件であっても究極目的ではない。生活の豊かさを実現するためには、国家的統合の条件を充足しつつ、それぞれの地域の在り方にそくした地域社会システムをつくっていかなければならない。これは自治体が自らの創意・工夫・努力によって遂行するしかない課題である。しかし、2つの主要事業である《まちづくり》や《地域福祉システムづくり》が諸事業の再編・統合を必要としていることから分かるように、基礎自治体レベルで実施されるほとんどすべての行政を《地域社会づくり》に向けて再編成する必要がある。限られた財源を有効に使って地域社会づくりを進めるには、自らの行政を創意・工夫・努力で再編成することが不可欠である。基礎自治体が《地域社会システムの編成主体》でなければならない。したがって、基礎自治体はそれを具体化する諸政策を企画・立案・実行する《地域仕会づくりの政策編成主体》でなければならない。さらには、この責務の遂行にふさわしい組織体制を編成する《自己組織編成の主体》でなければならない。そうなると、あらゆる局面で自治体の自己編成力が要請されることになる。このような自治体の在り方は、標準化・基準化・定型化された諸行政を着実に実施するように要請されてきた従来の在り方とは質的に異なる。
現行制度はその成功ゆえに改革を迫られているというべきである。分権化の動きをたんなる国・地方の間の権限再配分と考えるべきではない。何よりもまず、《地域社会づくり》に資する分権化でなければならない。地方分権推進委員会は、主として都市計画関連を検討する「地域づくり部会」と、主として福祉関連を検討する「くらしづくり部会」を設置して、分権化の具体的内容を検討した。それも、この問題意識があったからこそである。たんに中央の権限を地方に分与するだけの分権化では意味がない。地域社会づくりを遂行するために国と地方の関係をどう再編するか。この評価視点が分権化に貫かれていなければならない。そうであれば、分権化は、基礎自治体の主体的な自己編成力を充実させ、その発揮を促すものでなければならない。