イ Iターンの現状と課題
Iターンの場合は、Uターンよりも消極的な見方が強い。これは、当然のことながら希望者にとってはUターンよりもさらにさまざまな条件が厳しいからであるだろう。例えば、人間関係がない土地で就職先や住宅をみつけることはUターンよりはるかに困難が伴うだろうし、Iターン先が初めての土地であれば自分自身や家族がより不安を感じることになるだろう。
ただ、それらの障害があるとしても、自然や趣味や健康などを理由にしてあえてIターンを希望する人もおり、最近、都市部生活者が自然や趣味や健康を重視しているという志向を反映している。
ウ Uターン、Iターン促進のための条件
Uターン、Iターンは、都市住民の自然志向や健康志向を受け、当面は従来とほぼ変わりなく推移するであろうが、今後、各地域でさらに促進されるためには、いくつかの条件が満たされる必要があろう。
まず第一条件として、それぞれの地域において、さまざまな職種についてUターン者やIターン者に対する職の提供が行われることが必要となる。雇用者の能力と企業のニーズとのマッチングは実際にはなかなか難しいのが通常であり、結果としてUターンが失敗に終わる場合もある。したがって、当該地域での職の提供が幅広く行われる必要がある。
次に、地域そのものの位置条件の優位性が重要となる。Uターン、Iターン希望者は概して自然環境を求めてはいるが、同時にある程度の利便性や文化的施設も求めている。また、気候条件も上位にあげられており、各地域横並びで比較できる一般的条件について、優位性を保つことが重要となる。さらに、固有資源などが付加価値ある魅力となっている地域も、趣味や食べ物などを重視する人たちにとって魅力に映るだろう。
一方で、希望者側としてもいくつかの点に留意する必要がある。移住先で成功するためには、当然のことであるが、その土地、文化、人間関係にとけ込むことや、新しい職場の条件を明確に合意しておくことが必要となる。また、移り住む前に、新しく得るものの代わりに何かを捨てられるか、何を優先して居住地を選ぶのかという価値水準を明確にしておくことが重要であろう。
3. 若者定住施策の枠組みと地方公共団体の支援制度
(1) 若者定住施策の枠組み
ア 定住施策の捉え方
「定住」とは、端的に、人生の一定期間、コミュニティの一員として定住意識をもって同一地域に生活すること、とみることができる。したがって、定住施策とは、基本的に、定住意識を育み、定住を維持・継承し、新世代への継承を含めて、安全、利便、快適(含む保健)で活力を再生産できる地域づくりに帰着する。ただ、今後の自由時間社会、ネットワーク社会においては、動態的な定住が基本と考えられるため「マルチハビテーション」(複数地域居住)を視野に入れた対応が必要となる。
生活関連分野別にみれば、安全な生存を保障し、各種の生活ニーズを満たす職、住、遊、その他生活基盤の整備に分けることができる。
定住を時間軸でみた場合、その期間をどのように設定するかは難しいが、ここでは概ね四季の生活を経験し、定住意識の醸成が可能である期間として一年間を想定する。
イ 若者定住施策の枠組み:「在住者」と「来住者」の定住施策>
ここでは若者を15歳〜39歳の年齢層で規定しているため、各論的な若者定住施策の枠組みは、これら各層の生活ニーズを満足させるための職、住、遊、その他生活基盤に関する施策、と位置づけられる。
その意味で対応する施策は、若者の属性やライフステージ、ライフスタイルなどに関連して発生するニーズと複合的に連関づけて設定すべきである。
若者定住施策は、大きく分けると「地域在住者の定住促進」と「UJIターン志望者の来住促進」に分けることができる。仮に、町内、町外に分けて定住関連のニーズを例示すると、概ね次のような点があげられてくる。