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設立の経緯

●“グラウンドワーク”という概念は、1968年制定の田園地域法に基づき設立された“田園地域委員会(環境庁の付属機関)”が、環境問題の顕在化しつりある都市近郊部での効果的な地域管理方法の開発を目的として、1968〜79年にかけて実施した実験事業を元に生まれた。

●この実験事業では、各地域ごとに専門家を1名派遣し、その専門家がコーディネイターとなり、その地域で起きている問題について、関係者や関連団体と共に相互の利益を最大限にひき出すような解決策を模索するという方式で進められた。この実験事業は大きな成功をおさめ、少人数のプロフェッショナルが現場に入り、利害の対立するもの同士をパートナーとしてつなぐ方式の有効性を実証した。

●一方、この方式は、大都市近郊のような、より問題が複雑な地域ではその効力に限界があるということも認識された。そこで田園地域委員会では、次のステップとしてパートナーシップの範囲を拡大し、産業界や市民団体も運動に引き込み、政府・自治体と地域が協力できる体制を模索する実験事業の実施を環境庁に要請した。

●この当時は、1979年に発足したサッチャー政権の下で“小さな政府”を標榜していたヘーゼルタイン氏が環境大臣を務めていた。氏は、田園地域委員会からの要請に対し、「ありふれた公共団体を創るのではなく、新しいメカニズムで活動できる組織の創出をめざす」という条件付きで事業を認可した。

●この条件のもとに生まれたのが“オペレーション・グラウンドワーク”実験事業である。これは、大都市近郊の広範な環境問題の解決を狙いとした事業で、1981年にグラウンドワーク・トラスト第1号をリバプール近郊で設立し、大きな成果を得た。

●この実験事業の成功を受け、政府はさらにグラウンドワーク事業への支援を決め、1983年にはリバプールとマンチェスターの大都市周縁部に新たに5つのグラウンドワーク・トラストを設立した。

●さらに1985年には、グラウンドワークの全国的な展開を図るために、事務局的な機能を担う組織として「グラウンドワーク事業団」をバーミンガムに設立した。

●1987年には、国の助成が田園地域委員会経由から、環境庁による直接助成に変更された。これにより、以前は活動対象が田園地域委員会の管轄である都市近郊農村だけであったのが、都市部まで拡大された。

 

運営形態

●グラウンドワーク・トラストは、商法上は政府、地方自治体、企業などの共同出資による非営利目的の有限会社であるが、同時にチャリティ団体でもある。

●2つの組織形態で運営している理由は、有限会社になっていると組織活動についての責任や法的義務のほとんどを会社に帰属させることができるほか、企業がトラストの事業を支援する場合に出資額をPR費として出損扱いにすることが可能になるというメリットがある。一方、チャリティ団体には、社会的な信用と共感を得やすい税制上の特典を受けることができるといったメリットがある(表10)。

●チャリティ団体であるための欠点は、活動内容と活動地域に制約があるということがあげられる。つまり、活動内容は、チャリティの目的に沿ったもののみ許され、活動地域は登録されている地域だけに限定される。したがって、この制約外の事業を行いたい場合は、独立会計の子会社を設立して、そこで事業を受託し、事業で得た収益をトラストに寄付するなどの方法をとる必要がある。

 

表10 税制上の特典

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資料:小山善彦「人間居住環境創造における企業参加の可能性」

 

 

 

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