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私が一九五七年に初めて日本を訪れ、さまざまな大学の教授たちと話をしたとき、われわれはドイツ語で話しました。英語を話す教授はほとんどいませんでした。一人顕著な例外がいて、特異な理由からだったのですが、それは林教授のお兄様、林健太郎氏でした。彼はドイツ史の教授で、英語もできたのです。それで林健太郎氏とは英語、ドイツ語を行ったり来たりしながら話をしましたが、ほとんどの人は林氏ほどはうまくなかったので、ドイツ語で話したのです。若手の教授たちが英語で話すようになったのは、ずっと後になってからのことです。

 

波紋広げるグローバリゼーション

 

しかし、ここでは過去一〇〇年余りの間に国家の成長において何が起こったかという、より幅広い問題について話そうと思います。いくつか理解しなければならない重要な要素があります。おそらく最も重要なのは、軍国主義と帝国主義の発展でしょう。アフリカを分割し、西欧列強がアジアへの進出をはかった後、軍事力は経済力の基盤となりました。日本における財閥のかなりの部分は、軍事政権によってつくられ、実質的に工業基盤を強化しました。そして、これは言うまでもなく、植民地の収奪や原料を入手しようという動きへつながりました。日本が石炭資源の自給を果たすために一九二〇年代に満洲へ進出したようにです。そんなわけで一群の国では帝国主義が国家の成長のけん引力となり、英国も渋々ながらある程度は追随し、米国は孤立主義的色彩を強めました。

やはり重要になった二番目の要素があります。イデオロギー的な要素です。これはマルクス主義で、計画経済は非計画経済より優れているという考え方です。フランスではこれはdirigismeと呼ばれました。統制経済という考え方です。

若いころ私は、レオン・トロツキーの著作をいくつか読みました。彼はマルクスについての短い著作の中で「資本主義のもとでは、各人は自分のためを考えるが、誰も万人のためは考えない」と述べています。私は「そのとおり」と思いました。しかし少し年を重ねると、「だが、誰が万人のためを考えることができるのか。そんな人間はいやしない」と思うようになりました。それでも、計画経済国家の成長がたいへんな成功を示しているよ

 

 

 

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