日本財団 図書館


【4月23・24・25日 ロンドン】

あこがれのロンドンに着きました。いかにもロンドンらしい、薄暗くて寒い、少し雨模様の天気でした。フランクフルトからの飛行機が遅れ、街の中も混んでいて、予定より遅い7時半頃、ホテルに到着しました。長い一日の終わり。疲れ切って、それでもみんなあちこちに散らばっていきました。ホテルは街の東のはずれ。ロンドンタワーとタワーフリッジを見渡す、テームズ川のほとりです。
翌日の朝、早速みんな元気に探検が始まりました。私は赤堀さん達と、まず地下鉄の一日フリー切符を買って、街の中心、ピカデリーサーカスに出ました。ロンドンの街は、道が直角に交わっていないし、通りの名前が書いていないところもあるし、はじめ全く反対の方向に歩きながら目的物を探したりしていました。お昼に、ルカーチさんの通訳として日本フィルによく来る中井さんと会い、リージェント・ストリート、オックスフォード・ストリートなどの、ショッピングツアーになりました。そして、とあるホテルに入って、ゆっくりと(おなかいっぱいに)アフタヌーンティーを楽しみました。何と優雅な一日だったことでしょう。
再び地下鉄に乗って、5時に始まる広上氏招待によるホームパーティに出かけました。地図を頼りに、夕方になって晴れ始めた明るい光の中を、閑静な住宅地を鑑賞しながら進みます。マエストロのお宅は、プライベート・ゾーンを除いては、内装が整ったばかりという、まだ家具の何もない複合3階建て、6部屋住宅。ぶしつけに全部見せていただきました。一番下(地下)に台所があって、とりよせてくださったおいしそうなお料理がたくさん並べてありました。2階(一番上、イギリスでは1階というのでしょう)にはバーがあって、お酒がいっぱい。赤・白ワインが豊富に並べてあります。一応5時過ぎに、ホスト役の広上氏が「ウェルカム・トゥ・ロンドン」ということで乾杯をし、あとは自由に座ったり寝そべったりしながら雑談や情報の交換をしました。ピザやお寿司など続々と到着して、ごちそうはたっぷり。それに加えて和田薫新婚ご夫妻、現地報道取材陣、ピアニスト小川典子さん、マネージャーなどが、それぞれ差し入れを片手に駆けつけて下さり、本当に賑やかでなごやかな一夜を共に過ごしました。私達は8時半頃に失礼しましたが、あれから何時まで続いたのやら…マエストロ、お疲れだったことでしょう。ありがとうございました。
(辻野順子 ヴァイオリン)

 

遂にこの日が来てしまった。市民の皆さんからの有形無形の支援と期待をズッシリと背に感じつつ、最初の公演地ロンドンヘと旅立つ総勢107名。日本フィルは1986年、1991年と2度ヨーロッパ旅行を行っているものの、ドーヴァー越えてイギリスに渡るのは今回が初めて。まだ見ぬ彼の地で何が待ち受けているのか…という緊張感はあまりない、旅慣れた私達。国内旅行の時には、大型楽器以外は自分で持っているので、かろうじて演奏団体とわかるけど、ほとんどのメンバーが楽器を別便で送っている今、この集団はかなりうさん臭いかもしれない。
ヒースロー空港は気温10度。厚い雲の下は冷たい霧雨が降り、めちゃくちゃうっとうしい天気。これぞイメージ通りのロンドン。先回りしてご報告すると、次の日の午前中まで雨が残ったものの、それ以降は天気晴朗、気候温暖。実はイギリスの、最も過ごしやすい季節なのでありました。
ホテルに向けてバス3台で出発。建物がステキ!タクシーがかわいい!あの有名なお店があそこにあった!完全なおのぼりさん状態。それにしても渋滞がひどくて、ちっとも前に進まない。車は多いのに、歩いている人がやけに少ないのはなぜ?
タワー・シスル・ホテルは、かの有名なロンドン塔やタワーブリッヂのすぐ横。観光地のド真ん中だ、わ一い。ロンドン塔の歴史とか考えると、夜ちょっと怖いかもしんない。さっそく、8時でもまだ薄明るいロンドンの街へ食事に買い出しにと散っていく。初めての街でも食いっぱぐれることだけはない日本フィルであった。
翌日は、この旅行中に3回しかない終日オフ。みんなパワフル観光客と化し、ロンドン中を駆けめぐる。夕方には指揮者の広上さんがワインパーティーにご招待下さった。ロンドンに本拠を置いている彼は、ここに立派な家を持っていて、みんなで押しかけてワインやらお寿司やらいただいて大満足。マエストロは世界中を飛び回っているので、この閑静な住宅街にある邸宅にいられるのは年にひと月とか。何ともったいない!
翌24日、いよいよリハーサル。18日に預けた楽器と久しぶりにご対面。輸送中の事故はなかったようで、まずはひと安心。リハーサル会場に使わせてもらったヘンリーウッドホールは、音響がいい。ゼータク言わない。こんな練習場、東京にほしいなあ。あ、充分ゼータクか。
リハーサルは進む。マエストロ広上の鋭い指示が飛ぶ。ツアー全体の成功を占う、大事な初日を明日に控えて、やたら気合いが入っているところに悪い知らせ。ソリストのガヴリーロフ氏急病のため、合わせはゲネプロのみ。わー、プレッシャーの上乗せ。みんなピリピリしてくるのも道理。ロンドン在住の日本フィル指揮者・藤岡幸夫さん、アンコールに演奏する「土俗的舞曲」の作曲者の和田薫さんも合流。心強い!
そして当日。名門ロイヤル・フェスティヴァル・ホールは、テムズ川沿いに建つ美しいホール。来てみたらリフトの故障とかでセッティングが大幅に遅れ、ゲネプロの時間が短くなってしまった。わー、プレッシャーのてんこもり。このホールは巨大な割にステージは狭いし、うまく鳴らすのが難しいから、短時間でどこまでモノにできるのか。苦境にはやたら強いぞ、日本フィル!強がってもダメか…。
いよいよ開演。客席はやっぱり正装したレディース・アンド・ジェントルメンが日立つ。東洋系もかなりの比率。入りはまあまあ、でも器がデカいから結構な人数かも。実は私1曲目の「鳥たちの時代」(吉松隆)がどう受け止められるかが、最も興味のあるところ。
この曲は、鳥や森を通して“自然”がすごくストレートに伝わってくる曲だけど、作曲者も演奏者も日本人、というこの「鳥」を、ロンドンの人達はどう感じるか。あ、ウケてる。よかった。やっぱり伝わるんだ!さあ、調子が出てきたぞ。ラフマニノフ「パガニーニ・ラプソディー」、ファリャ「三角帽子」、この勢いでドーッといっちゃえ。「三角帽子」ではマエストロが踊る踊る。ノッてますねえ。やった、すごい拍手とブラヴォーだ!でた、スタンディンク・オーベイション。1曲目のアンコール、アルヴェーン「エレジー」でちょっとしっとりしといて、和田薫「土俗的舞曲」はジャパネスクな曲だから聴衆大喜び。ロンドンの皆さん、お楽しみいただけましたか?いろいろあったけど、終わってみればノープロブレム。さあ、明日からまたガンバルぞ!
(山田千秋 ヴァイオリン)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION