I.調査研究の概要
はじめに
船舶運航の近代化のために、船舶の各種設備のコンピュータ化・自動化が進んでいるが、海図についても電子的に画面上に表示して、その上に船の位置を自動的にプロットさせるような有効な使い方ができるようになってきている。このようなシステムで、十数年も前から海図情報として海岸線のみを表示し、GPSがまだ出現していなかったことからロランC等の海上位置測定装置を接続して船位を自動的に表示させる簡易なシステムが複数のメーカーから市販されはじめ、便利なことから瞬く間に漁船等を中心に普及した。これらの簡易なシステムは省力化や利便性等に効果があるとの評価がある反面、海図知識が十分でないメーカー各社が独自に海岸線を数値化していることから精度的に問題があったり、海図では不可欠な最新維持、つまり新港の竣工や防波堤延長、架橋工事等が行われてもデータ補正がほとんどなされなかった。そのうえデータフォーマットや媒体が不統一であるなど、信頼性や互換性に難点があり電子海図情報の一元化が望まれていた。
このような情勢の中、(財)日本水路協会は平成5年度(以下、平成を省略)から4年計画で国の資料(海図数値化データ)に基づき、主として内航船向けの航海用電子参考図(以下、ERC(Electronic Reference Chart))を開発・作成してきた。7年度末には合計23種のERCをICメモリカード(以下、ICカード)に収録して提供、早期普及に効果的な中小縮尺べースにより日本の沿岸海域を隈無くカバーすることができた。そして、事業の最終年度である8年度には瀬戸内海周辺の主要港について入港に必要な5種の大縮尺ERCを開発・作成し、高精度測位のDGPS(Differential Global Positioning System)時代にふさわしい詳細なERCを提供している。一方、世界に先駆けて海上保安庁が刊行した航海用電子海図(以下、ENC(Electronic Navigational Chart))については当事業で整備したCD-ROM製作システムを使用して複製し、主として中・大型船のユーザーに提供を開始した。
本報告書は5年度(事業初年度)の報告書に続き、6年度、7年度、8年度の事業内容、成果等を主として報告するもので、最終項に4か年をとおした開発・作成のまとめを記述する構成とした。
1.調査研究の目的
メーカー独自の作成による海岸線のみの表示ソフトウェアでは情報量の上で航海者側の不満も大きく、また上述のとおり精度もまちまちであることから航海の安全にかかわる恐れもあり、海難の一因にもなりかねない。