V.結言
本報告書は、日本海上起重技術協会が、平成8年度に財団法人日本財団の調査補助金を受け企画した、海洋開発の先進国である欧州各国での、「港湾・海洋施設における浮体構造物等の実情視察調査」の成果を取りまとめたものである。欧州においては、1970年代に発見された北海油田開発に係わる、海洋構造物の設計および施工技術の開発にめざましいものがある。その後、これらの技術は、石油開発のみならず、広く市民生活に密着する施設整備に活用されてきている。なかでもノルウェーでは、近年、浮体橋梁やテンションレグプラットフォーム(TLP)の開発にめざましい発展を遂げている。また、オランダでは、ロッテルダム港の沖合展開、高潮防潮堤の建設など、港湾・海洋工事に常に斬新な技術革新を果たしている。 調査は、視察団および調査団が協力して行なったが、とくに大水深における施工法に焦点をあて、工法、作業船、施工機器について重点的に実施した。報告書のとりまとめは主として調査団が行なった。調査の成果は本文に詳細に記述したところではあるが、今後我が国の港湾および海洋開発を促進するに当たって、とくに以下の点について学ぶところが大きいものと考えられる。 1)大水深における施設整備に係わる構造物の構造様式は、立地場所の条件、施工条件を最重要要件として、最も適切なものを選定している。 2)大水深における構造様式として、浮体構造物を積極的に採用している。 3)構造物の施工に当たっては、目的を達成するのに最も適切な作業船および施工機器を開発している。 4)港湾における技術開発においては、これまでの経験を基にしつつも、効率性、経済性、そして環境保全に留意している。 5)開発した技術に対する誇りと自信を持ち、これらの技術が広く全世界で活用されるよう、積極的にかつていねいに情報提供している。 6)あくまで、技術を伝承し、かつ発展させようと意識している。 7)技術開発の動機は、自らが必要とするところにあり、また、欧州各国の技術開発成果の活用は、強力な内需に支えられて、大胆かつ果敢に実践し、成果をあげている。 20年前、欧米の経済が停滞し、その半面我が国の経済成長が抜きん出ていたころ、その停滞を称して、英国病などと表現したことがあったが、このたびの調査で、欧州におけるリストラが順調に進んでいることを実感した。リストラといっても、これまで抱えていた技術分野のすべてを切り捨てるというのではなく、自らの最も得意とする部門を尊重し、もっぱらその分野の技術開発を促進する半面、その他の分野に係わるものを思い切って切り捨たところが注目に値する。 我が国の海洋開発は、いま、まさしく転機にさしかかっている。今後の社会資本の整備の長期展望に立って、目標を定め、そのための技術開発を効率的に進める必要があるが、技術開発の成果が、できるだけ早く実用に供せられ、国民の福祉の向上に貢献することを願ってやまない。 本調査の成果が、港湾および海洋に係わる多くの方々のお役にたてれば幸いである。
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