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(6)港湾施設

前章で紹介したように、港湾構造物に浮体構造物を用いた事例は、浮防波堤、浮体式係船岸などがある。これまでに、建設されたものの最大規模のものは、福山みゆき地区の長さ70m、幅10mのハイブリッド構造の浮防波堤、また、広島港宇品地区の長さ150m、幅30mの浮体式係船岸である。これらは、いずれもPCまたは鋼コンクリートハイブリッド構造である。ハイブリッド構造のものはドックで一体で施工されたが、PC製のものは陸上ヤードで数ブロックに分けて製作し、静穏な海域で洋上接合して一体化している。
今後、港湾施設の近代化に伴って、立地場所は大水深でかつ軟弱地盤海域になる。この際、浮体構造物を利用しようとすると、これまでの規模より一層大規模なものになる。数ヘクタール、数十ヘクタールの超大型浮体構造物を一体で製作することは不可能であるので、やはりユニットをドックやヤードで製作して洋上接合しなければならない。ユニットは、数百m×数十mにもなり、これは、既往の最大規模の浮体構造に匹敵する。洋上接合には一層の技術開発が必要とされる。
浮体式港湾施設としては、コンテナ埠頭が考えれる。300m×40mの岸壁については、すでに沿岸開発技術研究センターにおいて、技術的検討がなされている。これは、鋼PCハイブリッド構造で、ドックで一体で製作するすることを前提としている。この場合、これ以上の、長さと幅をもつ浮体を洋上接合して製作するところまでは検討されてはいない。図-3.1.19はその概念図である。
近年、大型船の建造を海洋施設の建造に利用しようとするところから、マリンフロートやメガフロートなどの研究組合で、数十から数百ヘクタール規模の超大型浮体を港湾施設として利用するための研究開発が実施されている。図-3.1.20はTSL用港湾施設の概念図、図-3.1.21は海洋水産基地の概念図である。使用材料は主として鋼材で、軽量化、高強度化、施工性の向上を図っている。具体的な、立地場所を想定したフィージビリティアナリシスが実施されている。
このような、超大型浮体構造物を建造する際の技術的課題の主要なものは以下のとおりである。
a.自然条件の調査:波浪、風、潮流、高潮、地震、海震など
b.荷重および外力:死荷重、活荷重、波力など自然環境荷重の長期変動性と再現期間
c.環境調査および対策:調査項目の抽出、調査方法の確立
d.構造設計:洋上接合法、接合継ぎ手、疲労解析、荷重の組合わせ、安全率または割り増し係数、非線形応答解析、終局強度、接合継手、動揺および変形、経済性
e.係留設計:動揺解析手法、荷重の組合わせ、係留構造の開発
f.施工:洋上接含法、作業船および施工機器の開発
g.防災計画:災害予測、被災予測、防火、脱出
h.維持管理:耐久性、防食法、モニタリング
i.法的課題:固定資産・土地登記・課税
すでに述べたように、上五島や白島で用いられた数ヘクタール規模の大型浮体構造物を単体で建造する技術は確立されたといってよい。今後、数十ヘクタール規模の浮体構造物を建設するに当たっては、上記課題のうち、とくに、経済性から要請される構造断面のスリム化が動揺および変形ならびに機能に及ぼす影響について十分な考究が必要である。

 

 

 

 

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