高齢者における総頸動脈壁厚に対する各種危険因子の影響に関する検討
愛媛県・町立野村病院内科 川本龍一・阿部雅則
要約
平成6年9月から平成7年4月までと平成7年9月から平成8年4月までの両期間における60歳以上の一連の入院患者(男性82例、女性65例、平均年齢72.2歳)に対して、頸動脈病変の評価を行い、各種危険因子および動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、一過性脳虚血発作、脳梗塞)との関係について検討した。頸動脈壁厚は、年齢、Brinkman Index、収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧、LDL-C/HDL-Cといずれも正の相関を認め、一方HDL-Cとは負の相関を認めた。頸動脈壁厚を目的変数とし、各種危険因子を説明変数とした重回帰分析を行ったところ、年齢、Brinkman Index、収縮期血圧、HDL-C、糖尿病の存在が有意な寄与因子であった。動脈硬化性疾患の有無との関係では、それを有する群では壁厚は有意に大きかった。以上から60歳以上の高齢者においても加齢、喫煙歴、収縮期高血圧、HDL-C低値、糖尿病の存在は、頸動脈肥厚の危険因子であり、さらに動脈硬化性疾患との間に有意な関係を認めたことは、高齢者においてもこうした危険因子に対する積極的治療の必要性を示唆するものである。
I.緒言
超音波断層法による頸動脈硬化性病変の評価は、非侵襲的で繰り返し観察が可能であることから、動脈硬化を評価する補助的手段としてここ数年盛んに用いられている。Salonenらは超音波断層法を用いて頸動脈硬化性病変の評価を行い冠動脈障害との関係を報告し、また半田らは頸動脈病変の狭窄度と虚血性脳血管障害との関係を報告している。さらに頸動脈病変は、動脈硬化の危険因子である脂質・糖代謝異常を有する患者においては有意に進行しているとする報告もみられる。一方高齢者においては、こうした動脈硬化性疾患の罹患率は極めて高いことから、動脈硬化性病変の非侵襲的評価は臨床上有用であり、各種危険因子との関連を検討することは動脈硬化を予防する上からも重要であろう。
そこで本研究では、60歳以上の一連の高齢入院患者を対象として、超音波断層法を用いた頸動脈硬化性病変の評価を行い、従来より知られている動脈硬化の各種危険因子との関連をみるとともに動脈硬化性疾患の評価法としての有用性を検討した。
対象と方法
対象は平成6年9月から平成7年4月までと平成7年9月から平成8年4月までの両期間における60歳以上の一連の入院患者であり、壁厚に修飾が加わりうる高安動脈炎および脂質代謝に影響ある抗高脂血症薬を服用している者は除外した。内訳は(表1)は、男性82例(年齢:72.5±6.9歳)、女性65例(年齢:71.7±6.7歳)、合計147例(年齢:72.2±6.8歳)であった。
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