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離島診における「在宅死」の現状と課題−症例を中心に−

長崎県・大瀬戸町国保松島診療所 湊健児

要旨

今日高齢者の在宅ターミナルケアを考える時、医療だけではなく、介護と福祉が同時に語られなければならない。急速に進む高齢化社会への対応として、医療から介護福祉へと政策的な力点が大きくシフトしつつあるが、未だ目標とはほど遠い感がある。とりわけ在宅死を扱う場面においては、患者の終末のQOL(生活の質)が問われることになり、介護福祉の強力な援助が必要となる。
今回、当院で在宅で死を迎えられた6例の症例を紹介し、医療と介護福祉の面から、一離島で在宅死を進めるために必要な課題について検討した。医療では、高度な技術をどのレベルまで在宅に持ち込むのか、また連携病院をどのように確保してゆくかが課題であった。介護では、介護者の負担軽減をどのように実現してゆくか、またそのためにも現在の福祉サービスを質的にも量的にも高めなければならないと考えられた。

はじめに

近年在宅医療の重要性が強調され、行政サイドからも医療費削減の狙いもあって、90代に入り強力に推進されてきた。
医療費の問題はさておき、本来自分の住んできた家で人生の最後を送りたいという気持ちは、患者はもちろん家族も同様であろうと思われる。とりわけ、山村の僻地や離島などの隔絶された小さな地域で、生涯のほとんどを終えていく老人にとっては、その思いは相当に強いものに違いない。今回、当診療所で扱った「在宅死」の症例を検討しつつ、「在宅死」に必要な条件等について、医療、介護、福祉等の面から考察したので報告する。

I.対象と方法

平成4年3月から平成8年7月までの、4年5月間に経験した在宅死6例(男3例、女3例)について、症例検討を行った。この6例は、いずれも週一回の定期往診を一年以上にわたって行った患者である。統計的に扱うには症例数が少なく、また在宅医療自体が本来個別性が強い分野と考えられるので、個々の症例検討を中心に、医療、介護、福祉の面に焦点を当てて問題点を探った。

II.症例

症例1:88歳、男性
平成6年8月から、慢性肺気腫、慢性気管支炎による歩行時の一急、切れ、呼吸困難が強くなり定期往診となる。しばしば感染症を合併しては、慢性気管支炎の増悪を繰り返し動作時の呼吸困難が進行。平成7年10月より、右心不全によると思われる顔面上肢の浮腫が出現し、日中も臥床している時間が長くなる。この頃から近くに嫁いでいた娘と(妻は2年前に死亡し一人暮らし)在宅死の方向を確認する。この時点でも屋内ADLは自立しており、ヘルパーが

 

 

 

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