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ひとつひとつの出来事が訪間看護のエネルギー



鴨川市は南房総の農山村地域に立地している。先月、院長より「へき地医療の現状と対策」の実践の記録の寄稿依頼を渡され、正直な気持ちを綴ってみました。スタートしてまだ半年で、ステーションとしても半人前、自分自身も半人前以下の人間でとても恥かしいのですが、地域の人々にかける情熱だけは持っているつもりです。

田代ひろ子鴨川市ふれあい訪間看護ステーション(千葉県)

ここ鴨川市立国保病院3階に「鴨川市ふれあい訪間看護ステーション」が立ち上がって3か月目を迎えた。今では「土方看護婦」というニックネームまでいただき、日々タオルと訪間かばんを下げ、忙しく走りまわっている。何もないところからの出発で、パンフレットも手作り。車も軽の中古1台だけが専用車で、他の病院の空いている車や、時には軽トラックでの訪間である。
わがステーションは、長狭平野の真ん中の山の中にある。初回訪間は地図を見ながら行っても、山の陰にあったりで迷うことも少なくない。近くは病院から歩いて10分の利用者から、遠くは車で片道40分ほどの距離も数件ある。そんな中で、スタッフー人ひとり、皆いきいきと仕事をしている。
いきいきとできるエネルギー源はどこにあるのか?「利用者」というひとりの人間とそれにかかわる人たちが私たちにエネルギーを与えてくれるから、と私は感じている。
それまでは、何も話さない、話せないと思っていた利用者が、看護婦の名を呼んだ時の感動。「ステーションがあったから、主人はわずかでも家で過ごせた」と今は亡き夫のことを語る高齢の妻。何年かぶりで、いえ何十年ぶりで看護婦と家族とで自宅の風呂に入り、何ら感情も表情も表さない、手足の拘縮している植物人間に近い利用者の体を「ほら、こんなにさっぱりしたよ」と、看護婦と家族で何度もさわり、話しかけたこと。それらひとつひとつがみんなのエネルギーとなり、そのエネルギーを次の訪間へとつないでいく。
時には、自分の思い通りにはいかないこともあるだろう。心の交流がはかれず悩む時もあるだろう。だからこそ、私たちのケアが評価された時の喜びは大きくなる。これからもずっと続くであろう、この人と人のかかわりを大切にしていきたい。
愛と優しさを運ぶ訪間看護婦は、どっこい地域と共に生きていく、たくましい「土方看護婦」である。
(編者注)看護協会ニュースNo.353より

 

 

 

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