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研究と報告

急に退院を希望し自宅での死を選択した症例を通しての振り返り*1

増田富子*2 大川明子*2
はじめに
終末期をホスピスで迎えることを希望して入院した患者が、自宅での死を選択し退院するケースがある。今回入院中「家に帰りたい、帰りたくない」と、気持ちが揺れ動いていた患者が、突然、退院を希望し5日後、家族に見守られて自宅で死を迎えた症例を体験した。患者の言動を振り返り、どのような援助、関わりが必要であったのかを考察できたので報告する。
経過
患者はKさんで、61歳の女性である。病名は、左乳癌、骨転移、左胸部皮膚転移があった。家族構成は、夫60歳、長女29歳の3人暮らしで、ハワイ在住の姉とも交流があった。住宅は、1か月後の5月にマンションに引っ越す予定であった。病状の受け止めは、左乳癌の再発で、骨転移がある。胸水貯留があるが、肺転移のことは知らなかった。
入院までの経過:平成5年4月、左乳癌のため左乳房切除術施行した。10月には、再発のため再手術と化学療法を施行した。平成8年3月、胸水、呼吸苦出現し、肺転移と診断されたが、抗癌剤治療はしたくないと入院を拒否され、治療しなければ予後1か月といわれた。尊厳死協会にも加入した。3月末、当院に夫とともに入院相談に来院し、できるだけ家族と一緒にいたいが、迷惑もかけたくない。元気になる方法があれば、少しでも元気になってあと1年は生きたい。だめであれば、楽に死にたいと話していた。
入院後の経過:入院時は、痛みや呼吸苦があり、リン酸コデインやリンデロンの内服を開始し、症状コントロールを図っていった。それにより、「ここにきて安心した」「こんなに気分がよいのは久しぶり」と話していた。反面、「これからどうやって過ごしたらよいかわからない」と話すため、散歩や美容院を勧めたり生活環境の調整を図っていった。また、外泊も勧めてみたが、「新しい家に帰りたい」と話すため、この時は無理には勧めなかった。
その後症状は落ち着いていたが、「頭がボーとするので、薬を調節してほしい」といわれるため、一時リン酸コデインなど減量してみたが、痛

 

*1 Looking Back at the Case of a Patient Who Suddenly Wanted to Go Back Home and Chose Ding at Home
*2ピースハウス病院
第11回がん看護学会学術集会、1997年2月

 

 

 

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