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研究と報告

終末期呼吸困難に対するモルヒネ吸入*1

市丸みどり*2 西立野研二*2 児島五郎*2 松井昭*2
岡安大仁*2 日野原重明*2

 

目的
National Hospice Studyでは終末期6週以内の患者の70.2%に、また他の調査では50%以上に呼吸困難が出現すると報告されている*1。原発性、転移性肺癌だけでなく、癌終末期の患者にはこのように多くの呼吸困難が出現し、痛みと同様に衰弱、不快、活動の制限を増強させ、残された時間のクオリティ・オブ・ライフを低下させている。
呼吸困難に対して、アセスメントおよび症状緩和は近年、緩和医学での独自の方法が提言されてきている。しかし、いまだ痛みに対する症状緩和よりも困難であるとされる。今回、患者への侵襲が少なく、より効果がみられるものを考えて、モルヒネの全身投与とともに、吸入法を試みた。
モルヒネ吸入法は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)に最初に用いられていたが、欧米では約10年前から、癌終末期にも用いられるようになった。Oxfordの緩和医学の教科書では、1)効果が速い、2)全身の副作用が少ない、3)自分で調節できる、と有用性を述べている*2
よって今回終末期癌患者にモルヒネ吸入法を試みて自覚症状改善例、不変例、副作用出現例の提示を行い、その作用機序を考察した。また機序から患者のQOLを保てる有効な使用法を考え、最近の知見も加えて報告する。
方法
対象はピースハウス病院入院中の患者で終末期にあり、呼吸困難を訴える。原疾患への積極的治療の終了を余儀なくされ、または望まず、多くは終末の5週以内となっている。転移性を含めて肺癌は年間全患者の44%を占めている。
入院後標準的な緩和治療として、疫病コントロールと同様に呼吸困難のコントロールにオピオイドの内服、持続皮下注射を行っている。補助として酸素の吸入、グルココルチコイド、ベンゾジアゼピンの内服、点滴静注を使用している。さらに呼吸困難感の強い症例に対して、塩酸モルヒネの吸入を5〜10mgから開始した。10mlの蒸留水で混じ、超音波ネブライザーで約5〜10分間経鼻的に1日2〜4回噴霧した。その最中、直後、およそ1時間内の自覚的訴えを、訴えの程度のままに指標とした。

 

*1The Effect of the Nebulized Morphine for Terminal Dyspnea
*2ピースハウス病院
第10回日本サイコロジー学会総会、1997年3月、第2回日本緩和医療学会総会、1997年3月

 

 

 

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