日本財団 図書館


第5章 法律と条例・要綱との関係
 
1.中環審答申について
 
中環審答申においては、国の制度が法制化された場合には、手続の重複を避けるため、国の制度の対象事業については国の制度による手続のみを適用することとされている。そして、地域の自然的社会的条件に応じた環境影響評価の実施は、スコーピング、スクリーニングにおける地方公共団体の意見聴取により運用面で確保されるとしている。
しかし、このような手続によっても、地方公共団体の意見がどこまで反映されるかについて制度的担保はないといわざるをえない。地方公共団体の中には、既に独自の条例をもち、環境影響評価制度の実績を有しているところが少なくないことにも留意する必要があろう。
そもそも地方公共団体が条例又は要綱によって、法律の対象でないものも対象とし(横出し)、また、法律と同一の目的で同一の対象についてより強い態様の規制ないし手続をとる(上乗せ)ことが許されるかについては、「法律と条例・要綱の関係」として従来から議論されてきたところである。環境影響評価に関する国と地方の制度の関係を考えるに当たっても、従来の「法律と条例・要綱との関係」の議論を参考にしつつ、この制度の特質を考慮する必要があると思われる。以下、中環審答申に基づき国の制度が法制化されることを前提として、この間題を検討することにしたい。
 
2.「法律と条例との関係」に関する一般的議論
 
憲法94条は、「地方公共団体は…法律の範囲内で条例を制定することができる」と定め、これを受けて、地方自治法14条1項は、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて…条例を制定することができる」と規定している。これらの規定における「法律の範囲内で」ないし「法令に違反しない限りにおいて」の意味については、判例、学説上問題とされてきたところである。
 
(1)法律先占論的な考え方
かつての支配的な見解である法律先占論によれば、法律の規定がある場合に条例で規制しようとするときは、それが法律と目的は同一であるが対象を異にするものであれば、法律の趣旨によって可否が決せられるとされ、それが法律と対象・目的が同一であり、法律よりも強い規制を定めるものであれば、違法となるとされた。なお、このような法律先占論においても、先占領域の範囲は、法律が条例による規制を明らかに認めていないと解される場合に限られるべきであるとする見解が有力に主張された(明白性の理論)。
(2)有力説一憲法92条の地方自治の本旨の議論の導入
法律と条例の関係について法律の先占領域であるか否かを法律の解釈のみによって明らかにしようとする法律先占論に対し、昭和40年代後半以後、公害に対する条例による規制(特に、上乗せ規制)の必要が地方自治体で痛感されたことから、新しい理論が有力に主張されるようになった。憲法92条の地方自治の本旨の議論をこの問題に導入しようとする見解であり、憲法に抵触する法律は違憲であるとの見地から、

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION