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2. PL法の概要

2.1 製造物責任の概要とPL法制定の背景

(1)企業にとってのPLリスクとは
今、我々の身の回りでは、様々な製品が大量に製造され、流通過程を経て、使用・消費されているが、そのような製品が原因となって事故が起き、その製品の購入者やユーザーに損害がもたらされることがある。事故が起きて、人がケガをした、あるいは病気になったという場合には、入通院の治療費、休業損失、慰謝料などの損害が発生し、物が壊れたということであれば、その物の修理費用などが必要となるが、その事故原因が製品の欠陥であった場合、その製品を供給した企業に損害賠償責任が生じることが考えられる。この場合の企業の損害賠償責任を「製造物責任」と言い、英文名「プロダクト・ライアビリティー(Product Liability)」の頭文字を取って、一般に「PL」と呼んでいる。すなわち、製造物責任とは、「製造物の欠陥により、人の生命、身体又は財産に係る被害が発生した場合において、製造業者などが負う損害賠償責任」と定義することができる。
企業の作り出すハイテク製品がますます高度化・複雑化する中、専門知識を持たない消費者による思わぬ製品被害の発生も考えられ、現代の高度消費社会においてPL事故は不可避的・構造的に発生するとの指摘がなされるようになった。そして、?しばしば、大量の被害者が広い地域にわたって発生し、巨額の損害賠償請求がもたらされる、?企業イメージのダウンによる経営への長期的な悪影響がもたらされる可能性が否定できない、?製品が引き渡された後に事故が発生するため、企業としてその完全なコントロールが容易ではないなどのPL事故特有の性質から、近年、このPL問題が企業の重大なリスクとして広く関心を集めるようになっている。

 

(2)我が国においてPL法が制定されるに至った背景
製品事故が発生した場合、民法の下では、被害者は、通常、債務不履行ないし不法行為の考え方に基づいて賠償を求めていくことになる。これらの考え方は、いずれも旧来の過失責任主義に基づいている。過失責任主義とは、「損害の発生について、故意または過失がある場合にだけ損害賠償責任を負う」という原則であり、逆に言えば、「過失(そのような結果が生じることが分かっていたのに、適切な結果回避措置を取らなかったという注意義務違反)なければ責任なし」という表現で現わすこともできる。しかしながら、近代科学・近代企業の発達に必然に伴うような損害について、この過失責任主義の下では被害者の十分な救済が困難であると指摘されるようになってきた。
すなわち、製品の欠陥に起因する事故によって被害を受けた消費者が製造業者の責任を追及するためには、そこに直接の契約関係が存在しない以上、不法行為責任(民法第709条)に基づく損害賠償を求めるしか方法がなく、その場合に請求が認められるためには、被害者の側で製造業者に「過失」、すなわち注意義務違反があったことを証明する必要がある。これは、「被害者が過失の

 

 

 

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