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第3章 ロシアにおける地方制度と地方自治

1 はじめに 一 移行期ロシアにおける地方制度の課題 一

(1)問題の所在

ロシア連邦は、21の共和国、6の地方(クライ)、49の州、ひとつの自治州、10の自治管区、そしてモスクワとサンクト・ペテルブルグのふたつの連邦的意義を有する都市(連邦直轄市)からなる連邦国家である。1993年に制定された脱社会主義化、西欧流の立憲国家をめざして制定されたロシア連邦憲法によれば、これら89の構成主体は相互に同権であるとされ、その連邦構造は、国家権力体系の統一、連邦と構成主体のそれぞれの国家権力機関のあいだの権限の区分、諸民族の同権と自決に基礎をおくとされている。他方、地方自治体は、こうした連邦構造のもとに、国家権力機関の体系には属さないものとしておかれている。

ちなみに1978年憲法体制下(77年ソ連憲法にもとづいて制定されたロシア共和国憲法)では、自治共和国16、自治州5であったが、崩壊直前のソ連の連邦構造再編の過程で、「主権宣言」「独立宣言」のオンパレードという状況のもとに、自治共和国や自治州が共和国への「格上げ」を宣言し、90年代以降今日のような構成になったのである。

ロシアの場合、<地方>という概念には多義性がある。連邦中央にたいする地方という、いわば集権化に対抗して「分権」を主として問題にする場合の<地方>と、そこでいう<地方>を含む国家権力機関にたいしてより下位にある地方団体の自治を保障されるという意味で地方自治が問題となる場合の<地方>である。前者は、地方と州、それに民族的編成原理に基礎をおく共和国、自治州、自治管区において登場する。民族的編成の原理によらないロシア連邦の構成主体たる州や地方は、モスクワとサンクト・ペテルブルグという連邦直轄の二大都市とともに、民族的指標にもとづく構成共和国と「同等」の地位にある。地方と州を連邦の構成主体として位置づけ、その代表機関と執行機関を国家権力機関とすることによって、本来的に中央にたいして相対的であれ自立した地域である地方と州は、「地方自治」という問題設定の外におかれることとなった。

1993年に制定された新しいロシア連邦憲法は、構成共和国の主権性を否定し、構成主体の同権を盛り込むことによって、改めて<地方>を先に述べたふたつの意味で位置づけながら、連邦構成主体の国家権力機関と地方自治機関の二重構造を確認した。

連邦制度がこうして民族原理と地域原理によって編成される場合、それはしばしば「非対称的連邦制」または「連邦制度の非対称性」と呼ばれる(1)。もとより、こうした独特の連邦構造をとるについては、91年段階から激しい論争的な議論があり、象徴

 

 

 

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