市町村の双方とも憲法上の地方公共団体であり、憲法が二層制を前提としていると説く学説が有力である(7)。しかし、憲法が都道府県と市町村の双方の地方公共団体の存在を要請しているという解釈は、必ずしも説得的とはいえないように思われる。
市町村が憲法上の地方公共団体であり、原則としてそれを廃棄できないことは前述したが、他方、都道府県は、国と市町村の間にある中間的な組織であり、住民に直結した地方行政を担当している組織としては、やや中途半端な位置にあることは否めない。憲法上の地方公共団体の意義が確定されておらず、地方自治の保障の実際のあり方が立法に委ねられているということを考慮すれば、むしろ、都道府県の改廃は原則として憲法上可能であると解することが妥当であると思われる(8)。地方自治制度が二層制である必要がないことは、基本的に層制をとっているアメリカやドイツの例(ただし連邦制がとられてはいるが)に照らしても明らかである。また、学説では、都道府県を廃止して道州制を導入することは憲法上許されると説く見解が優勢であるが(9)、このような見解はとりもなおさず都道府県の廃止が直ちに憲法違反となるものではないことを如実に示しているといえよう。
都道府県が憲法上の地方公共団体がどうかをめぐる論議は、1957年の地方制度調査会の答申で、都道府県を広域行政の担い手と位置づけ、その長を国の政府が任命することを提言したことを契機に論じられた。学説では、この提言に反対し、都道府県の長が公選によるべきことが有力に主張され、その根拠として都道府県もまた憲法上の地方公共団体であること、憲法が二層制の地方自治制度を前提としていると有力に主張された(10)のである。たしかに、地方制度調査会の提言は地方自治の保障をおびやかすものであり、憲法上も違憲とみなされざるをえない。しかし、その違憲の根拠は、都道府県が憲法上の地方公共団体であることを強調するのではなく、別の論理に拠るべきであったように思われる。すなわち、都道府県は、実際に地方行政権を相当付与され、地方行政を現実に担当しており、したがって、<1>そのような自治的権能をもった都道府県について、市町村への権限委譲や権限強化という法的措置のないままに、都道府県を国の関与の下に置くことは、憲法の地方自治の保障の精神に反し、また、<2>地方自治行政を実際に行っている都道府県の長を公選とせずに官選とすることは、長の公選を要求している憲法93条2項の趣旨に反する、と説くのが妥当であったように思われる。
なお、都道府県・市町村の二層制が憲法上の要請ではないとする場合に、都道府
前ページ 目次へ 次ページ
|
|