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第5章 アメリカの首都における地方行政制度

−ワシントンD.C.の創成と現行統治制度−

斉藤 誠

1 はじめに−連邦法と州法という視点から

 アメリカ合衆国の連邦首府であるワシントン市は、いずれの州にも属さず、かつそれ自体、州でも準州(territory)でもないコロンビア特別区(District of Columbia)と同一の領域からなるという、アメリカの連邦制及び自治制度のなかで特異な地位を占める。
 例えば、州を持たないことが連邦憲法の適用において無視しえない差異を持つことは、私人の人種差別に対する平等保護条項の適用において著名な1948年の合衆国最高裁判所Shelley v.Kraemer事件判決(334 U.S.1、1948)、と同裁判所による同日のHurdv.Hodge事件判決(334 U.S.24、1948)の論理構成を比べることで明らかになる(1)。
 いずれの事件においても、係争の対象となったのは、土地所有者による、各人の土地を白人以外の者に売却しないという土地利用制限約款の効力であるが、Shelley v.Kraemerにおいて、合衆国最高裁は、ミズーリ州の裁判所がこの制限的約款を強制したことが、州がShelleyに対して法の平等の保護を否定したことになるとして、州(State)は、その権限内にある者から法の平等を奪ってはならないという、連邦憲法第14修正1節により州裁判所の判決を破棄した。いわゆるState Action法理の適用である。
 それに対して、コロンビア特別区内の土地において結ばれた同趣旨の約款に関する、Hurdv.Hodge事件において、同様に下級審裁判所−−当時は、D.C.には連邦の地方裁判所(district court)・控訴裁判所(court of appeals)しかなかった−−が制限的約款に違反してなされた売買を無効とし同約款を強制したのに対して、連邦最高裁は、下級審による強制は、1866年の連邦の人権法(Civil Rights Act)に違反するものであり、また、仮にこの法律がなかったとしても、当該約款は連邦憲法、条約、連邦法および判例に示された合衆国の『公序良俗』(public policy)に反して無効であるとした。
 すなわち、州において「州法」の規制を受ける私人の行為について、連邦憲法第14修正の平等原則違反をいうためには、「州の行為」が介在したという構成をする必要が

 

 

 

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