2 ドイツにおける自治体内地域区分(Gemeindiche Untergliederung)による住民参加の組織をめぐる諸問題 名和田是彦
私がコミュニティーに関心を抱く理由は、分権ないし分散という観点から2つある。一つは価値的に望ましい、住民が自分たち自身にかかわる公共的な事柄について、何がしか自覚的にかかわっていくのは望ましいということである。もう一つは、そのやり方が効率の面でも望ましい場合があるということである。効率性の観点からから大都市行政が世界的にも展開し、広域的に集権的なシステムをとるにも拘わらず、自治体内下位区分、つまりあたかも一旦奪われた自治を住民に返すような試みも同時に行われている。ベルリン、ハンブルクもそういう例である。結局のところ、大都市行政固有の必要から集権体制を採用したものの、特定の事柄、例えば地域福祉あるいはある種のまちづくり事業といったものは分散的なシステムをとった方が効率もよいと考えられているのではなかろうか。ここでは課題を限定し、比較的大きな都市の自治体行政について、自治体行政の地域分散傾向と住民参加の関連を探りたい。
(1)3つの問題意識
ア地方自治と民主主義地方自治というものは民主的制度だとよく言われる。しかし19世紀のドイツの公法学の思想史を勉強してみると、地方自治はある意味では団体自治論という、それほど民主的とも言えない別な思想伝統と結合していることに気がつく。ドイツでは自治体の条例をSatzungと言うが、Satzungとは団体の会則のことであり、地方自治体が国家権力の一分肢であるよりはむしろ自生的な地域集団であった時代の名残りを留めている。団体自治論は、政治的には保守的な立場から主張された。ところが、最近その立場をかえたよう、な論戦が行われる機会があった。ドイツの地域評議会や区代表会といった名称