第3章 地域のまちづくり
1 未来を協働創出する営み 深谷昌弘
(1)コラボレーションヘの注目とその背景
新しい価値を創り出す営みとして《コラボレーション》(協働)が注目されるようになってきた。例えば、1990年(邦訳は1992年)に刊行されたマイケル・シュレーグ著(藤田史郎監修)『マインド・ネットワーク』は、ジャーナリストがとりまとめたコラボレーションを主題とする著作である(注1)。この書では、コラボレーション(協働)がどのような共同作業であるかを具体的に現象面から描き、協働を促進する情報技術の在り方が論じられている。翻訳書は4年前に出版された。原著の題名には“Collaboration”という述語が含まれているが、邦題には「コラボレーション」という述語が使われていない。おそらく、この言葉を題名に使うのはわが国にとってまだ時期尚早だと判断されたためだろう。また、本文中では、「コラボレーション」とされ、、「協働」(あるいは共働)という訳語も使われていない。しかし、4年後の今日、両方の述語ともしばしば目につくようになってきた。それだけ人々の関心と注目を集めるようになった証左である。コラボレーションが注目されるようになってきた背景の一つには、マルチメディア化とネットワーク化を志向した情報技術の目覚ましい発展がある。マルチメディア・ネットワークは、確かに、人間のコミュニケーション活動に新しい可能性を提供する。しかし、その技術特性がどのような可能性を拓くかについては、すでに多くの議論が展開されつつあるのでここでは特に詳しく論及しないことにする。ここで指摘したいもう一つはその社会的背景である。コラボレーションが注目される社会的背景には主に三つほどの要因があると思われる。一つは、キャッチアップ型の成長がほぼ限界にきて価値創出型社会への移行に