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また政府を組織すること自体のコストも当然問題となる。政府形成の固定費用、たとえば人件費、選挙運営費、役所などの公共施設の建設費などは、概して、分権化が進むほど大きくなるものと予想される。財政制度の国際比較の議論で、国の経済力が弱いうちは人材や資金の都合から中央集権的な仕組みをとらざるを得ないが、経済力がついてくるに従って分権的制度をとることが可能になるという議論があるが(もちろん、住民の嗜好の多様化という要因もある)、これも政府形成の固定費用に関連した問題である。また、この他に、分権化と移動の自由が進むに伴い、条件のよい地域に人々が集中し、その地域では逆に混雑というディメリットや環境悪化が発生する可能性もある。これも分権化の進展にともなうコストの1つと考えられる。混雑費用の問題に対しては空いている地域からの何らかの財源移転が考えられるかもしれない。以上の議論から、分権化定理と規模の経済性のバランスに加えて、さらにスピルオーバー効果、政府形成の固定費用、混雑のコストを考えあわせ、配分効率性と生産効率性という2つの側面をにらみながら、都市の最適規模すなわち分権化の程度は決定されるべきであろう。

(5) 公共部門における生産効率性の分析

最後に、公共部門における生産効率性の分析そのものの難しさについて触れておきたい。公共部門は非効率であるという類の議論がよくあるが、では実際その程度はと言えば、実はこれを厳密に計ることはかなり難しい。それは公的なアウトプットの本来の効果や評価と、それを計測するときの指標が必ずしも一致しないことに原因がある。また、配分効率性の議論をする場合でも、その財・サービスのアウトプットの性質を理解していないと、そもそも最適点を決めることはできない。規模の経済性にしても、1人の看護婦から今まで10人でサービスを受けていたものを11人で受けるようになったときに、どのようなディメリットが発生するのか、公共財の視点から言えばどの程度の非競合性があるのか、すなわちどのあたりで急激に条件が変化するかといったことを特定しない

 

 

 

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