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  4−2九州・山口地域における内航海運業の輸送及ぴ経営の実態

  (1)内航海運業の経営形態別にみた経営実態

 内航巡送業と内航船舶貸渡業の経営状態、問題点等について概観する。
 事業所の経営状態は、「余りよくない」と「業績は悪い」を合計すると、内航海運業者全体の約8割に達している。この背景には、「内航輸送量の減少(低成長下で主要貨物である鉄鋼、石油、セメント等の輸送量が伸びない)」、「内航需要の変化(企業の海外展開による国内輸送需要の変化)」があげられているが、「業界全体が船腹過剰」となっているのが最大の要因である。このようななかで、内航運送業の30%〜40%、内航船舶貸渡業の51.8%が採算割れとなっている。経常上の問題点をみると、「船員の高齢化」が2業種とも高いが、次いで、内航運送業では、「適正な運賃収受ができない」、「不況、円安等による荷主の運賃値下げ要求が厳しい」なかで、内航船舶貸渡業では「用船料の低下」が全体の57.1%とトップでよせられている。ヒヤリング調査によれば、内航運送業がいうところの「適正運賃の収受」とは、週あたり40時間労働の交代要員を命んだ運賃の収受を荷主に要望したいということである。しかし、コスト削減のなかで荷主は現行運賃で輸送できるように企業のリストラを要求するが、40時間労働対応のための予備船員を企業努力で賄うのは困難となっている。大手鉄鋼直結オペレーターであっても、鉄鋼の内外価格差(旧際価格競争)のなかで荷主が大幅な合理化を打ち出しており、5年連続20%の運賃値下げを峻求しており、同様の傾向は船主である内航船舶貸渡業にも響いているなど、リストラ等による用船料の大幅低下によって今後の企業経営が危ぶまれている。
 また、「内航輸送量の減少」は、「船舶の稼働率の低下」(2〜3日の待ち時間が発生し、船の回転がうまくいかない)をもたらし、これが上述した経営悪化につながっている。内航船舶貸渡業では、「船員賃金の上昇」、「借入に伴う元金、利払いの重圧」などコスト的にかなり厳しい状況にあることが窺える。
 このように、輸送量の減少により船腹過剰になり、さらに荷主の物流コスト削減のなかで海上運賃の値下げが行なわれ、経営基盤が脆弱である内航船舶貸渡業にそのしわ寄せがきている。
 今後の不況対策については、「省力化による運航コストの削減」が2業種ともに最大の対策となっており、合理化によって現在の危機を乗り越えようとしている。
 最近の荷主二ーズをみると、「大量輸送システムの構築すなわちスケール・メリットによるコスト削減」が求められており、オペレーターとしては「省エネルギー船や省力化船(M0船*等)等の近代化船の導入」を考えている。
 最近の用船二一ズは「雑貨輸送の専用船需要」が高くなっており、オペレーター二ーズに対応するため内航船舶貸渡業は「運航の効率化」、「省エネ船、近代化船の導入」を検討している。

 *「M0船」とは、船舶における機関室の無人化のことである。機関、関係機器類の操作や監視を常時無人で行なう体制の船舶をいう。わが国では日本海事協会がM0という符号の船級を考えており、この種の船級を取得した船舶をいう。

 

 

 

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