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研究の背景
日本は明治以来急激に社会構造が変化し、生活も欧米化している。しかしながら、人々の慣習、生活習慣には昔ながらの意識、価値観、宗教観などが色濃く反映されていることは地域医療に従事する者が誰でも実感することである。医療従事者は患者の社会的背景、疾患理解の意識としての伝統的な概念や習慣に触れる以外にも、民間療法といわれる伝統的治療に遭遇する機会が多い。最近では、高齢化社会の到来とともに健康に対する関心が高まり、いわゆる「健康ブーム」が生まれている。マス。メディアから提供される健康増進に効果的といわれる様々な情報は我々の日常臨床にも少なからず影響を及ぼしている。
明治以来の近代西洋医学中心の医学教育の立場では、一般的に日本古来の伝統医学や民間療法には否定的な見解をとることが多く、これらの治療法は否定、黙殺される傾向にあった。しかし、世界的には医療資源が限られている途上国はもちろんのこと、欧米諸国でもセルフケアは広く行われており、近代西洋医学と伝統的医学の併存は中国の漢方やインドネシアのジャムウと呼ばれる生薬の利用(herbal medicine)をはじめ、広く行われており、欧米の国々でも、その効果を客観的に評価し、効果のあるものは取り入れていこうとする動きがみられ、医療費節減の立場からの費用効果分析も行われている。一部の療法は慢性疾患の良好なコントロール、機能的予後の改善、あるいは医療資の効果的運用という観点からが見直されている。しかしながら、文化的背景や社会構造の違い、あるいはケアそのものの差違から、諸外国の研究を日本に適用することは難しく、日本独白の研究の意義は大きい。
私たちの経験からも、患者は*セルフケアの中に、伝統的な民間療法を取り入れ、患者が医療機関で行われる医療と併用、あるいは、むしろfirst choiceとして民間療法や伝統医学が選択されることも少なからず見受けられる。患者の評価するところの効果は西洋医学より大きいこともあり得る。また、マス・メディアから絶えず流れてくる情報は患者の心理に様々な影響を与え、医師はじめ医療従事看は、意見を求められるのみならず、時にはそれらの療法が期待される治療効果に与える影響も考慮せねばならない。プライマリ・ケアの現場では伝統医学、民間療法との融和を計りながら、予後やQuality of lifeの改善を期待することも多い。
今まで日本では、伝統医学や民間療法は主に民俗学的立場からのアプローチがなされ、

 

 

 

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