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はじめに
全身の塞栓症は、心臓弁膜症、特に僧帽弁狭窄症において合併頻度が高い1)。Framingham研究では、僧帽弁狭窄症に心房細動を合併すると脳塞栓症の発症率がコントロール群の約18倍になると報告されている2)。しかしながら、僧帽弁狭窄症における塞栓症の発症機序については、必ずしも十分には解明されていない。最近、血栓性疾患の血小板活性や凝固線溶活性を評価するために、種々の新しい分子マーカーが臨床に用いられるようになってきている3-5)。今回、我々は、これら分子マーカーを用いて、僧帽弁狭窄症患者の凝固線溶活性について検討した。

 

方法
1. 対象は、リウマチ性僧帽弁狭窄症患者12例(男性2例、女性10例)で、年齢は53±2歳(39〜68歳)、平均僧帽弁口面積は0.81±0.07cm2であった(表1)。12例中、心房細動は11例で、洞調律は1例であった。心房細動例は全例経皮的僧帽弁形成術(percutaneous mitral valvuloplasty,PMV)施行前3ヵ月間以上経口抗凝固療法を施行し、INR(international normalized ratio)で2.0−4.0にコントロールした。PMV施行当日のINRは平均2.7であった。抗血小板剤や凝血学的に影響を及ぼす他の薬剤は投与されていなかった。重度の僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、塞栓症の既往、左房内血栓、糖尿病、肝障害および腎障害例は、PMVから除外した。また、年齢をマッチさせた正常健常人15例(男性3例、女性12例;年齢53±2歳)をコントロール群とした。
2. 僧帽弁狭窄症患者には、全例、経胸壁心エコー検査を施行しM−mode法より左房径を、また心臓カテーテル検査により平均僧帽弁圧較差および僧帽弁口面積を測定した。
3. PMVは井上らの方法により経心房中隔的に施行した6)。
4. 採血は、PMV施行当日午前9時に、19ゲージの採血針を用いて正中肘静脈より末梢血を、またバルーン拡張前にSwan−Ganz(7F)および井上式バルーンカテーテル(12F)を介して、各々右房および左房血をtwo−syringe法にて採取した。なお、予備研究では、カテーテル採血による凝血学的分子マーカー値への影響は認められなかった。Platelet factor 4(PF4)およびβ−thromboglobulin(βTG)の測定にはsodium citrate、theophylline、adenosine、dipyridamoleを、thrombin−antithrombin lll complex(TAT)、plasmin−α2−plasmininhibitor complex(PlC)およびvon Willebrand factor antigen(vWF:Ag)の測定には3.8%

 

 

 

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