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?T. はじめに
少産化が定着し、出産は従来以上に家族の一大イベントとなった。今や出産は超近代的な施設・設備を整えて異常に対応するものから、家庭分娩にいたるまで多様化している。そうした中で、妊婦はじめ家族は、施設内出産をどのように想像し、期待しているのであろうか。自分たちの希望を医療関係者にきちんと伝えているだろうか。栃木県内で出産する妊婦達はどのような地域特性をもっているだろうか。
一方、私たち助産婦はじめ医療関係者は、妊婦や家族のニーズを果たして的確に理解しているであろうか。対象のニーズと医療関係者の提供するケアの間にズレはないか。単に分娩が正常に終了するだけでなく、妊婦・家族が希望する出産に主体的に取り組めるように援助することが、ケア提供者に求められていると考える。そのために今回は対象のニーズを調査した。続いて提供したケアと受けたケアを同時に調査して両者のズレを検証したいと考えている。

 

1. 研究目的:対象者の主体的出産を援助するために、栃木県内で出産する妊婦に対し、分娩環境・分娩方法および出産に携わる者に関するニーズを調査する。
調査結果をもとに対象のニーズを満たすために医療関係者がどのように対応したらよいかを検討する。2. 用語の操作的定義:
おまかせ:自分にとって良い結果を期待して無知・無力を装い、医療関係者に依存し、責任を回避する、あるいはしようとすること。宗像は日本人の医療関係者と患者関係を上記のように述べている。我々はこの宗像の関係を「おまかせ」と定義して用いる。(宗像恒次、新版行動科学からみた健康と病気、p.265、メジカルフレンド社、1990)

 

?U. 文献検討および研究の概念枠組み
1. 文献検討
「出産」は家族を含め女性にとって、人間として大きな発達課題となる。課題達成は妊娠期に彼女たちが考えていた要求が実現することであり、それは「満足な出産」によって達成できると考えることができる。中井ら1)は「妊娠中に意図した分娩時の行動や思いなどの達成度が高いと、分娩の満足度は高くなる。」としている。また、山本ら2)は「対象自らが行動し、それを本人が「できた」と実感できるかどうかであり、また目標志向的に行動していくことが、対象の満足につながっていくのである。」と述べている。中重ら3)や志水ら4)も同様に対象の主体的取り組みが満足につながるとしている。さらに、柳吉5)は「近年、人間性の復活やQOLが問い直されるようになり、生活ニーズが医療ニーズと同じ重みを持ち、まず心のあたたかさが求められるようになってきた。そして、医療を受けるために制約されながらも、その人がその人らしくいきられるよう、個の重視が認識されるようになってきた。」と述べている。つまり、「満足な出産」をするためには、妊婦たちが主体的に能動的行動をおこすことによって達成されていくこと、妊婦たちの要求を実現できるような周囲の人間のサポートがあること、生活ニーズを満たすための環境が「満足な出産」の要素となりうる。
マズロー6)は人間の基本的欲求の概念と全体的概念を著した。全体的概念には自己と他人、表層と深層、勤労と遊びあるいは病理と健康をも含めた全体であり、言い換えると技術だけでなく目的をも含めた全体を問題にした。動機理

 

 

 

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