序章総論
辻山幸宣 1.はじめに−研究の目的− 1996年12月20日、地方分権推進委員会第1次勧告「分権型社会の創造」(以下「第1次勧告」という)が内閣総理大臣に提出された。94年7月に委員会が設置されてから約2年半におよぶ審議の一定の結論である。この「第1次勧告」は心置規制や財源問題など多くの問題を先送りにしたにも拘わらず、その基本的な方向性において極めて重要な内容を含んでいるといってよい。そしてその要諦はなんといっても機関委任事務制度の廃止にある。 すなわち「第1次勧告」は、機関委任事務を廃止した上で従来の機関委任事務をつぎの方針にもとづいて整理するとしている。?@事務自体を廃止するもの、?A中央政府が直接執行することとするもの、?Bその執行が国の義務に属し国の行政機関が直接執行すベきではあるが、国民の利便性又は事務処理の効率性の観点から、自治体に委託して行うもの(法定受託事務:仮称)、?C自治事務(仮称)へ移行するもの。こうした上で、自治事務については従来の中央政府による行政的関与を極力廃止し、自治体の自己決定にもとづく執行を基本とする方向性を打ち出した。法令の定めとの優劣関係、許認可に代わる「協議」(一部の事務には合意を要する協議)など、中央政府の干渉を残した部分はあるものの、基本的には自治体における自己決定に委ねられる。 こうした改革は中央・地方の関係のみならず、自治体の政治・行政と市民との関係にも大きな変革をもたらすことになるであろう。中央・地方の関係は原則的に対等・協力を基本としたものに組み替えられる。その詳細は、今後の「国と地方の関係の調整に関する一般ルール」の具体化の課程で明らかにされることになっている。一方自治体に与える影響については、95年3月に公表された地方分権推進委員会の「中間報告」で、つぎのように表現されている1)。 「中央集権型システムから地方分権型システムに移行したときには、地方公共団体の『自ら治める』責任の範囲は飛躍的に拡大することになる。条例制定権の範囲が拡大し、自主課税権を行使する余地が広がることに伴い、地域住民の代表機関として地方公共団体の最
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