メキシコ経済における著しい特徴としては、他のラテン・アメリカ諸国と比べ、産業の多様化が最も進んでいることが挙げられる。これは、近年における工業化の進展が貢献していることは言うまでもない。
他方、構造上の問題点としては、国内の所得格差の不均衡の問題がある。早くから農地改革が進められてきたメキシコでは、大土地所有制に基づく貧富の懸隔は少ないが、幾多の保護政策の下で急速に工業化を推進したことによって、都市と農村間もしくは商工部門と農牧部門間の所得格差が極端に広がり、またこれにより、人口の急増と相まって農村部を中心とした失業、半失業の増加や人口の都会への流入といった政治・社会問題も深刻化している。
近年における目覚ましい工業化を反映して、農業をはじめとする第1次産業部門の相対的重要性は著しく低下してきた。
1950年には、第1次産業部門(農・牧・林・水産業)の生産が国内総生産(GDP)において占める比率は22.7%であったが、90年には9%弱に低下しており、また同部門に従事する者の数が経済活動人口中に占める比率も1960年の54.1%から90年には実に26%以下に激減している。
しかし、農・牧・林・水産業はメキシコでは激増する人口に食料と職業を与え、外貨を取得するためにも等閑に付すことのできない重要性を持っている。
従って、政府は農地改革、灌概をはじめとする農業投資の拡大、公私の資金の農業部門への流入の助成、肥料使用の奨励、品種の改良、農業技術指導などの手段による農業生産性の向上、農産物の価格保証、農業保険の整備、流通機構の改善、農村部における教育・厚生施設の改良など多方面から農業の地位回復を支援しているが、農産物の増産は人口の増大、生活水準の向上、工業化の進展などに伴う内需増のテンポに追い付けず、また天候不順による不作が続いたこともあって、とうもろこし、小麦などの基礎食用農産物については軒並み輸入国に転じており、また伝統