この電離層内の電子の存在密度は一定でなく、高さ方向の分布をみると電子密度がピーク値を示すところが幾つかあり、その高さや電子密度のピーク値は季節や時間によって変化する。代表的なその状態を示したのが図9・3であって、ピークのところを下から順にD層、E層、F層(F1とF2に分かれる)という。電離層の状態が昼夜や季節で、変化をするのは太陽からの放射線の変化によるものであって、太陽黒点の爆発等に起因する異常放射は電離層のじょう乱(電子密度の異常変化)となって電波の伝搬に影響を与える。
この電離層の中での電波の伝わり方を、電波の伝搬速度を位相速度と群速度に分けて考えると、電子密度が増加するにつれて位相速度が速くなり、群速度は遅くなる。自由空間を伝わる電波の速度は光速度と同じであるが、この光速度Cと位相速度Vの比が屈折率nとなる。すなわち
である。このnは
ここで、fは電波の周波数、Nは1立方メートル中に含まれる自由電子の数である。図9・4にnの変化による電波の通路を示す。
電離層の観測において、地上からいろいろな周波数のパルス電波を垂直上方に送信したとき、周波数がfの電波は、電子密度がf = √(80.6N)のところに到達するとn=0となって、電波が元の方に戻ってきてしまう。したがって、そのパルス電波の往復時間から電波の戻ってくる高さを、また、周波数fから電子密度(単位体積中の自由電子数)Nを知ることができる。