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B編 406MHz極軌道衛星利用EPIRB

第1章 総論

1.1 EPIRBとコスパス・サーサット・システムの生立ちとその概要

非常用位置指示無線標識装置(以下「EPIRB」という)は、船舶の遭難を通報することによって、捜索と救難の作業を容易にするための無線装置であって、国際海事機関(IMO)には、まだ発効はしていない漁船条約の中で初めて登場したが、その源泉は我が国が初めて導入した遭難信号自動発信器(SOS発信器)である。よく知られているように、SOS発信器では、その送信周波数は、当初、我が国独自の2091kHzが使用されたが、その後、国際的な無線電話のための遭難周波数である2182kHzに移行しつつあって今日に至っている。漁船条約で採用されることになっていたEPIRBは、この2MHz帯を使用するEPIRBであったが、条約の発効が遅れたためにこれは実現しなかった(漁船条約自身がGMDSSにより見直されつつある)。従って、実質的にEPIRBがIM0で初めて登場したのは、1986年7月1日に発効したSOLAS条約の二次改正(救命設備関係の改正)で、このときは航空非常用の周波数として従来から航空機の非常用測位送信機(ELT)に使用されていた121.5/243MHzを送信するEPIRBが採用され、今日に至っている。この条約改正の過程では、2MHzのEPIRBとこの航空用の周波数のEPIRBとが比較検討され、アメリカ、ノルウエイなどですでに船舶用としても使用されていた後者が選定されたという経緯がある。1970年代の後半に、アメリカの航空宇宙局(NASA)は、当時15万機余りもあった民間の小型機(一般航空機)の道難位置の捜索のために衛星を使用する研究を開始した。この研究の考えは、ELTからの121.5/243MHzの送信を、比較的低い軌道を回る衛星による中継で地上で受信するとともに、衛星の移動によるドップラー効果による受信周波数の変化から、ELTの送信位置を決定しようという計画であった。地上局による受信周波数は、ELTと衛星との間のドップラー周波数と衛星と地上局との間のドップラー周波数の和で変化するが、後者は地上局の位置と衛星の軌道が分かっていれば、計算で求めることができるので、それを求めて差引きをすれば、ELTと衛星との、衛星の移動による距離の変化に比例するドップラー周波数を抽出できる。この考え方は、船舶の航法用の測位に使用される衛星航法(NNSS)と逆の関係になり(NNSSでは衛星からの信号を船舶が受信して船舶の位置を船上で計算する)、地上局は、遭難ELTの位置を計算できる。但し、このシステムで

 

 

 

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