日本財団 図書館


 

なってしまった。また現在の日本の川は、生活排水や工業廃液、農薬、畜産物の汚物などで汚染されている。河川の多くは、昭和30年代の高度経済成長と共に汚濁が進んできたといわれている。昭和46年には水質汚濁防止法が施行され、工場などからの排水はこの法律の規制を受けているが、風呂や台所、洗濯など、各家庭からの生活雑排水は規制されていないため、それが現在の水質汚濁の主な原因となっている。河川が汚れると、飲料水が汚染され、やすらぎや潤いを与えてくれる水辺の景観を悪くする、子供達の貴重な自然体験としての場である親水機能が失われるなど、さまざまな悪影響が考えられるが、最大の影響は生態系に及ぼす悪影響である。「生産者」である植物プランクトンや藻類、水草などを、「消費者」である水生昆虫や貝、魚などが食べ、それらをカワセミやサギなどが食べるという食物連鎖の関係である。そして死んだり枯れた生き物は土中の細菌などの分解者によって無機物へと変わる。水質汚濁は、この生態系のサイクルを破壊するのである。

 

(3)土・地下資源の破壊と生態系について
土壊の破壊は、?@土壌を取り除いてしまうこと、?A土壌を覆ってしまうこと、この2つに大別できる。
1)ゴルフ場の開発
土壌を取り除いてしまう例としては、ゴルフ場の造成が挙げられる。造成工事を行う場合には、それまで生えていた樹木や草、さらには生態系の基盤である土壌そのものを取り除いてしまう。ひと度土壌が削り取られたその土地では、元の自然生態系を取り戻すことはできない。ゴルフ場の開発が環境問題として取り上げられる場合、そこで大量に使用される農薬の影響が主に問題だとされているが、造成工事で生態系の基盤である土壌が取り除かれてしまうことにより、それまで自然に存在していた「生産者」や「消費者」といった構成要素の全てが姿を消してしまうことは、農薬の散布に匹敵する、あるいはそれ以上の環境破壊といえる。
2)道路の建設
土壌を覆ってしまうことによる生態系の破壊には、土壌をコンクリートやアスファルトで覆ってしまうものがある。これは、道路の建設や都市公園の整備、河川の護岸工事などの際にみられるものである。生態系に及ぼす影響は、前述した土壌を取り除いてしまう場合と全く同じである。また、道路の建設による自然生態系の分断は、「高次消費者」の生息域を消失するだけでなく、生き物の交流がなくなることで近親交配をすすませ、それが種の絶滅の一要因となってしまうこともある。アメリカのフロリダでは高速道路による生息地の分断で、奇形のフロリダパンサー(ピューマの亜種)が増加し、絶滅が危惧されている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION