日本財団 図書館


 

植物種および植物群落研究委員会植物群落分科会編、1996)が1996年に刊行された。この本は、日本国内で保護が必要とされる植物群落をリストアップする事を目的としているが、その対象として単一の群落だけでなく群落複合という新しい概念を提案し加えている。「植物群落レッドデータブック」は、複数の群落間の相互関係が緊密で、複数の群落が空間的規則性を持って配列している場合、その配列現象に生態学的価値があるとしており、これを群落複合と銘打って、単一の群落だけではなく群落複合をこそ保護する必要があると指摘している。これまでに取り上げてきた水域から陸域への移行帯に出現する群落は、まさにこの群落複合に相当する。この群落複合という概念は単一の種や群落を保護するだけでなく、その集合体、つまりは生態系を保護することの必要性とその対象を具体的に示した点で非常に重要な概念といえるであろう。環境先進国といわれるドイツでは、ハビタットの複合体ともいえるビオトープ(単一の種の生息地を指すのではなく、まとまりをもった生物群集の生息空間を意味する)を保護・復元する対象として捉え、ビオトープタイプのレッドデータブックが刊行されるまでに至っている。このように近年では単一の種だけでなく、そのハビタット、さらにそれを取り巻く生態系へと保護の対象を移すことの必要性が盛んに指摘され、かつその対象が具体的に示されるようになってきているのである。
種のみならず、ハビタットを保護・復元するには、環境条件に関する情報を具体的な数値情報として明らかにする必要に迫られる。今回の研究の目的はまさにこの点にあった。動物にとって餌の種類や量がハビタットを評価する上で最も重要な要素であるのと同様に、植物にとっては土壌の水分条件や栄養塩濃度が最も重要な条件となる。今回の研究の結果、河畔林では地下水位が一義的に群落の種組成を決定し、特に、頻繁に冠水するか否かがその決定に大きく関与していることが明らかになった。地下水位が高く時折冠水する湿性な立地ではヨシやカヤツリグサ科植物などのハンノキ林本来の構成種が優占していたのに対して、地下水位が低く乾性な立地ではハンノキの優占度が低下するとともにコナラ林の構成種や路傍・空き地雑草が優占していたことが確認された。また、河畔林・ヨシ群落共に、窒素量が多く相対的に炭層量が少ないーつまりC

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION