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○3. 種の保全からハビタットの保全へ
「我が国における保護上重要な植物種の現状(レッドデータブック)」(我が国における保護上重要な植物種および植物群落研究委員会、1989)の刊行により、絶滅が危惧される種のリストアップとその危険度がランク付けされて以来、それらの一部の種を保護することに、自然保護に携わる市民・行政は少なからず活動の力点を置いてきた。確かに絶滅が危惧される種の個体群を維持することは遺伝子資源の保護という観点から非常に重要である。しかし、第1章の考察で示したサクラソウの例にみられるように、一つの種をポットの中ではなく自然の中で保護するには、その種が生育する地域における種の多様性が維持されなければならないことが、近年における保全生態学の研究から明らかになってきている。それはとりもなおさず、ハビタットの多様性を維持することの重要性を示している。
本来、河川の氾濫原は、水域から陸域への移行帯にあたり、ハビタットの多様性が非常に高い地域である。氾濫原に成立している群落の種組成をみると、ヨシ群落や河畔林の種組成にみられるように、一つ一つの群落における種の多様性は決して高くはない。にもかかわらず氾濫原全体として高い種多様性が維持されてきたのは、このハビタット多様性の高さにあるということができる。しかし、近年にみられる多くの河川では、河道改修に伴う川岸のコンクリート化により、水域と陸域が物理的に分断されている。また、陸域では耕地整備などの集約的な土地利用の進行により、さらにハビタットの分断・縮小・孤立化が進んでいる。その結果として、放棄された水田や畑などには、本来ならば容易に供給されていた自生種の種子が供給され難くなり、大面積にわたっての帰化植物の侵入とその優占的な繁茂を許している。
そうした中、「植物群落レッドデータブック」(我が国における保護上重要な

 

 

 

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