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クヌギはハンノキと同じように実生・稚樹のない一山型のサイズ分布を持ち、一斉更新を行う種と考えられるが、河川沿いの先駆種というよりも、台地上で平坦地や斜面に形成された二次林の主要構成種としてよく知られている(辻1991)。宮脇(1985)によると、荒川下流域のクヌギが優占する株分は、耕作地の土壌流出を防止する目的で植栽されたものが、植林後に放置され、他種の侵入を受けて半自然的な群落組成を示すようになったと考えられている。クヌギ林には、亜高木層に全く個体が見られない外分が見られ、これらの林分が昔人間によって下草刈りなどが行われていたことが示唆される。クヌギ林の上層にハンノキが混在しているのは、クヌギを植栽した際の撹乱に乗じてハンノキが出現し、植栽されたクヌギの間で生長できた個体だけが生残できたか、もとからある程度の大きさのハンノキが存在していた立地に、ハンノキを伐採せずにクヌギを植栽したか、の2つが考えられる。いずれにせよクヌギ林は人為的に植栽された可能性が高いであろう。
エノキや、ムクノキは、地下水位の深いエノキタイプ、クヌギタイプでは、直径階分布がL字型になっており、また実生数が多いことからも、現在まさに地下水位の深い株分に侵入している種であると考えられる。これらの侵入種のうち実生個体数の多いムクノキやエノキ、マユミ(Euonymus sieboldianus)、イボタノキなどは鳥散布の種子を持ち、風散布型種子を持つハンノキと比べ、種子散布能力が優れていると考えられる。
孤立化の進んだ現在の河畔林では鳥散布型の種が増加し、都市の島状外分のような種組成に移行する可能性が考えられる。本研究でエノキ林と分類した杯分には、上層にエノキの他ハンノキも出現した。エノキ林は、最初はハンノキ林であったものが乾燥化により冠水しなくなったことでエノキなどの侵入を受け、エノキタイプヘと移行したものと考えられる。ハンノキ−クサヨシ型(Plot-20)では、低木層にエノキやムクノキが侵入し、定着していることが確認できた。つまり、ハンノキ−クサヨシ型(Plot-20)はハンノキタイプからエノキタイプヘと遷移が進んでいる途中段階のプロットであると考えられる。ハンノキ−クサヨシ型の群落属性は、ハンノキタイプの他の2型よりも、エノキ−ジャノヒゲ型やクヌギ−ジャノヒゲ型に近い値を示していた(図2-8、図2-10)。
鈴木(1975)によると、上越地方では立地の乾燥化とともにトネリコ(Fraxinus japonica)が本研究でのエノキの変わりにハンノキ林に侵入していることが確認され、東北や北海道では乾燥化とともにハンノキ林からヤチダモ(Fraxinus mandshurica)そしてハルニレ(Ulmus davidiana var. japonica)林への群落の移行が認められている。

 

 

 

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