日本財団 図書館


 

1.はじめに

河川とその周辺には上流から下流まで、水流や基質などの生育立地の特性に対応して、独特で多様な植物群落が成立する。例えば大規模河川の下流部の礫地氾濫原では洪水のような定期的な大規模の自然撹乱があり、礫質の土壌で夏期には乾燥が厳しいといった非常に特殊な立地であり、攪乱耐性型の特殊な草本群落が形成される(Haslam 1978,Kalliola & Puhakka 1988,Nilsson 1987,Hupp 1992)。日本での多摩川等の河原礫地の微地形と植生との関係はくわしく調べられてきており、流水面からの比高や表層堆積物の粒度組成の違いなどの差異によって多様な河川植生が成立することが報告されている(石川 1988;1991、倉本ら1993、加藤ら1993)。
また同様に河川の中下流域に特徴的な立地として、低湿地があげられる。もともと平野部を流れる川の下流域は広い氾濫原で主に低湿地であった。氾濫原でも川岸に近い部分では攪乱頻度も高く主に一年草群落が形成されるが、攪乱の頻度や基準水面からの比高に応じて川岸から内陸部に向かって帯状分布が見られ、ヨシ原のような多年草群落からヤナギ林などに移行していく(奥田・佐々木 1996)。大きな沖積平野を流れる河川の下流域には従来広大な低湿地が広がっており、ヨシ・オギなどを中心とする湿生植物群落が広がっていたことは疑いない。しかしながら下流域では人口の増加に伴い堤防が作られ,河川とそれ以外の地域が人為的に区画された。こうしてさらに開発が進み、低湿地のような立地は現在急速に減少しつつある。
湿生植物群落は、従来非常に身近であったため逆に失われつつあるが、最近は生活環境改善の意識の現れもあって、これらの植生の重要性も見直されてきた。またヨシ原は単に景観的な重要性だけでなく、水質浄化機能や魚類・鳥類などの多様な動物群集の生息場所としてもその重要性が再認識されてきている(埼玉県生態系保護協会 1996)。しかし、このような現状にあって、ヨシ原群落そのものに着目してその群落構造や、都市化などの人為的な撹乱による変化などを扱った研究は非常に少ない。そこで本研究では、都市域では比較的多くの低湿地が残っている埼玉県荒川の下流域でヨシ原群落の調査を行ない、その現状と人為的な影響の評価を行なうことを目的として研究を行なった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION