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はじめに

サクラソウの薄紅色、チョウジソウの藍色、カワラナデシコの紫色、フジバカマの白、ヨシやオギの銀色の穂波、水辺の季節を彩ってきた植物、これらの植物を育んできたヨシ原や河畔林は、今、絶滅の危機に瀕しています。
河川や湖沼の水辺に生育する植物は、春の七草、秋の七草の中にも多く含まれているように、里や野に生育する植物とともに永く人々に親しまれてきた植物です。普段は接することの少ない雲上の高山植物が、国立公園の特別保護地区等の指定を受け、法的に厳しく保護されているのとは対照的に、かつて我々日本人に最も身近な存在であったこれらの植物たちは、その身近さ故に、保護対策が講じられず、急速に姿を消しているのです。
ヨシ原などの水辺の植物群落は、ごく身近な存在であったために、そこに生育する生物相の豊かさや希少性の認識が、行政・市民の双方に欠如していたことが、その保護・保全に係る法制度・調査・研究体制の未整備をもたらした根本的な要因であると考えられます(埼玉県生態系保護協会1996「よみがえれヨシ原」)。
「我が国における保護上重要な植物種の現状」(我が国における保護上重要な植物種および群落に関する研究委員会植物種分科会編1989)、いわゆるレッドデータブックは、日本国内の絶滅に瀕する植物をリストアップし、中でも河川や湖沼に生育する植物の現状については、「平野部・河川などに発達した湿地は人間の生活域に存在するために、宅地造成、工業団地の造成・水質汚濁などによって急速に開発されています。このため湿地に特有の多くの植物種が絶滅を危惧される状態に至っている。…中略…湿地の消失が進み、湿地植物の自生地が急速に失われていることを強調しておきたい。」とするコメントを特別に付し、河川や湖沼に生育する植物の保護・保全の緊急性が高いことを訴えています。また角野(1994)は「日本の水草図鑑」の中で、日本に自生する水草約200種の内、4分の1が現在絶滅に瀕していることを指摘しています。

 

 

 

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