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あれば種類の確認や生息状況の確認は可能である。大がかりな調査用具を必要とせず、手網程度の準備で観察できる。水利権の関与する内水面にあっては、地域部外者よりも地元有利という点で身近な環境を観察地として選択しやすい。そして何よりも単なる「魚採り」としての初期の動機が、やがて水環境全体に生息する生物への関心をもたせる効果が期待できるという点にある。つまり淡水魚類を指標活用するときの利点に関しては、魚類そのものに介在する指標価値よりも水環境への関心を高めさせる要因としての有効性を重視したいと思う。
 一方、指標活用としての難点もなくはない。淡水魚類の分布という点からみると、極めて広範囲に生息する種類が少なく、フナ類のように全国的な分布がみられるものであっても、細胞遺伝学的な種の問題や広い水環境への適応性があるため一河川における流程分布の幅が広く指標対象種として選定しにくい点がある。移動性の問題点としては、水環境の化学的変化に反応した結果による場所の移動であるのか、物理的変動に伴う場所の移動であるのか判定しにくい。とくに河口域については潮の干満運動との関係もあり、時間帯による移動は頻繁である。また種の生活史のなかで河川を往来し、季節的な移動をおこなうもの(例えばウナギやハゼ類など)がいるので、水質の関連だけからみた移動現象と比較しにくい。淡水魚類の生態の多様性から考えると、河川の形態によって流程分布が異なることが多く、各地域によっても分布基準が異なるので、指標基準や水質基準との関連では一貫性がもてないなどの問題点が挙げられる。
 今後、指標生物の一つとして淡水魚類を活用するにあたっては、これらの問題を無視することはできない。現況では淡水魚類相と陸水環境の水質との関わりを比較定性的に判定できる素材についてはまだ十分な研究がないといってよい。また淡水魚類については地域性に富んだ魚類相や生態系が確立しているので、各地域単位毎に指標モデルを試作することが必要であろう。そして淡水魚類の存在形態だけをとりあげて指標化し、画一的な設定をすることよりも、水生昆虫や付着珪藻類などによる水質判定の従属資料として活用することが望ましいといえる。

淡水魚類の生活場所の特性

河川にはどこでも同じような淡水魚類が住んでいるようにみえるが、実際には極めて明瞭な生活区分をもっている。逆にいえば、環境に対して選択性の強い動物といえるので、河川のその地域における存在形態によって魚類相と生存数が決定されるといってよい。淡水魚類の場の選択性から見た河川存在形態の種別は次のように考えられる。

 

 

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