
ミティゲーションの将来展望
横浜国立大学教授 鈴木 邦雄
はじめに
1980年代後半からアメリカでは、沿岸域などの開発に際し「ミティゲーション(mitigation、代償措置)」という総が導入されている。ミティゲーションという言葉がまだ“市民権”を得ていないが国においても、最近では環境アセスメント制度のなかで、湿地・干潟など豊かな生物相あるいは貴重な生態系“実質的に”保全するために「ミティゲーション」を導入しようとする動きが活発となっている。 ミディケーションとは、一般的に、沿岸域などで開発を予定した土地の一部に水鳥の餌場となっている干潟や湿地があったとき、道路建設が動物の生息地を分断するときなど、開発によって失われかねない自然・動植物・生態系への影響を積極的に回避する・生態系の価値と機能を保全する・生態系への影響を最小化する、さらに新たな場所に同じ様な生態系を作りなおすことを含めた生物的・環境的に代償となる行為全般を指している。また、開発によって失われる生態系を別の場所に整備することがミティゲーションであるとの狭義の解釈もされている。 さて、開発行為と自然保護・環境保全とが全面的に対立した事例は、これまで限りなく多い。そして開発計画に対して、失われる自然・動植物の貴重さと価値の重要性を訴え、最終的に開発を全面ストップさせようとする自然保護サイドの自主的な行動は、世間の注目を浴びることが多く、開発の中止が成功するかどうかを度外視してでも信念を持って進められてきた。この対立の非構図の中では、ほとんどの場合自然保護サイドが敗者となり、湿地・干潟など貴重な生態系が失われることへの異議を訴えることが成果の全てであったとも言えよう(もちろん異議もあろうが)。 結論的に論じれば、ミティゲーションの概念と手法を導入することで、開発事業の環境アセスメントに対して、失われる(であろう)動植物・生態系の生物多様性、価値の機能を同程度まで回復・修復させるという“NO-NET-LOSS”原則をもっとも望ましい環境保全策として設定することができると思われる。そのことによって、今後「開発鞠ま環境保全行為を含むもの」と位置づけ、環境への影響を事前に予測・評価し、実現可能な代替案やミティゲーション・プランを策定したり、第三者機関によって評価・許可する制度が整備されることで、生態系の保全は開発サイドでもより主体的に考える問題に変わる。もちろん、“NO-NET-LOSS”原則は開発の全面ストップや予定地の変更をも含んだ概念である。そして、ミティゲーションを導入することは、開発計画に選択技を増やすことにより、開発と保護・保全について本格的に議論する場を提供する
前ページ 目次へ 次ページ
|

|