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会議概要

第一セッション「21世紀に向けた先進国の将来課題」

 第一セッションにおいては、まず日本側から、島田晴雄・慶應義塾大学教授が報告を行った。日本側の議論の要旨は、以下の通りである。

 日本とドイツ、そして先進国の共通課題として、3つの点が指摘できる。
 第一は、出生率の低下に伴う人口の減少である。人口の減少は、高齢化の進展、生産年齢人口の減少をもたらす。この結果、貯蓄率の低下、社会保障負担の増大を招くことになる。
 第二は、生活水準の向上が勤労意欲に与える影響である。勤労者の価値観の変化により、低賃金の単純労働力が不足する一方で、自発的失業は増加し、いわゆる労働市場におけるミスマッチという現象が拡大している。
 第三は、グローバリゼーションの進展に伴う問題である。グローバルな市場競争圧力の増大により、従来の産業・就業構造は改革を迫られており、経済の空洞化、失業増大の危険が高まっている。なかでも、グローバリゼーションの進展による経済空洞化と雇用問題、高齢化の進展による社会保障と財政問題が重要である。

 日本経済は、国際競争力ある貿易財部門と、非効率性を温存した非貿易財部門という二重構造になっている。グローバルな市場競争圧力が増す中で、非効率な非貿易財部門がもたらす国内の高コスト環境に耐えられず、生産拠点の海外移転が進んでいる。これは、国内産業基盤が縮小し、雇用機会が減少するという経済空洞化をもたらす。
 従って、非製造業部門も構造改革が迫られており、日本経済の再活性化と完全雇用のためには、産業構造高度化に伴う大規模な雇用の再編成が必要となっている。例えば、ある試算では日本の企業は社内に200万人の過剰雇用を抱えていると言われており、金融産業も雇用削減が避けられないだろう。
 改革の基本は、市場における自由競争を通じた効率的な資源配分の促進という方法である。しかし、構造改革を政府が適切にコントロールする総合的な政策が必要である。いたずらに社会不安を増大させるようなことは、反対に改革を遅らせるものとなりかねない。総合的政策は、政府による改革全体の道筋の提示、機動的なマクロ政策、基本的インフラの整備・規制緩和、労働者の教育支援、研究開発投資の政策的支援の6つの柱からなる。

 

 

 

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