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(3)操船手段の望ましさ
変針や変速を要しない航行は極めて負担の少ない状況であって最も好ましく、大角度変針や大幅な減速避航は無論好まれない。避航操船手段に対するこのような選好の順序は、各々の操船に付随する距離的・時間的損失とも関わりながら、海域の特性や船舶の運動性能、法規制、慣習あるいは機関操作の煩わしさ等、諸般の事情から形成されているものと考えられる。したがって、操船者の内面における時間的・距離的損失感は明確な物理量ではなく、曖昧な領域において定義付けることがより実際的であり、操船者の心理に近い。
具体的には確定的なモデルを得るに至っていないが、一般的な傾向として指数関数を用い表現した例を図?−6−21(a)に提示した。右変針と左変針の望ましさ、あるいは減速と増速の望ましさには差を設けるとともに、変針と変速を併用する操船手段については両者の積で与えるものと仮定している。
以上の設定に基づき、図?−6−21(b)には試算に用いた出会いの例を、また図?−6−21(c)には衝突危険度の算定結果を例示した。この出会い例は自船の1海里前方から左右共に300mの間隔を持って反航する2隻の船舶が存在する場合であり、このような状況では現在の針路には衝突の危険が少ないものの、左右への変針避航が閉塞されている様子と、潜在する危険ならびに操船者の心理的負担感が端的に表現されている。
既に述べた交通環境の評価指標としての避航空間閉塞度は、(a)図が示す体積と(C)図の体積の比に相当し、全ての操船手段が危険度に埋め尽くされる場合には1.0近づき、衝突の危険が全く存在しない場合には0.0を示すような評価値となる。

 

(4)物理的操船負担と評価の統合
操船者の内面に展開される心理的な負担とは対照的に、具体的な避航操船を行った場合には衝突の危険が減少し、安全な航過距離が確保されるにしたがって心理的負担は少なくなる。しかしながら、避航操船によって本来の航路からの逸脱や遅延が生じ、物理的な損失が発生する。この両者は互いにトレードオフの関係にあることは評価の基本概念として既述した所であり、交通環境を評価するに際しては双方を考慮しなければならない。

 

 

 

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