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6. 海上交通環境の評価指標の検討

 

来島海峡では、操船に及ぼす強潮流の影響を軽減し、航行の安全を図るため、順潮の場合は中水道を、逆潮の場合は西水道を航行することと海上交通安全法に定められている。広く「順中逆西航法」として知られるこの航法に従えば、南流時には来島海峡航路では左側通航となり、一般海域における航法としての右側通航とは異なるため、航路東口付近および西口付近の海域において航法切替えのための交差の発生や、転流時期に同じ水道内で反抗が生じることがあるなど、航行の安全を阻害する側面を有することも知られている。
この章では、潮流や狭隘な地形などが形成する自然環境に関わる評価から離れ、船舶間の出会い状況などの交通環境面から、特に来島海峡航路東西端付近海域における交差に焦点を合わせ、評価データ取得のために実施した海上交通流シミュレーションおよび評価指標と試算評価の結果について報告する。

 

6.1 海上交通流シミュレーション

 

左側通航となる南流時と、右側通航となる北流時における来島海峡の船舶交通については、レーダを用いた実態観測が行われており、船種・船型別に航跡や航行速力などの基本データが得られている。しかしながら、船舶の出会いは確率的な現象として発生すること、および、安全評価の観点からは船舶が輻輳する状況での検証が必要であることを勘案すると、既存の実態調査データから統計的に十分な時間に渡って船舶輻輳状況を抽出することは期待できない。すなわち、来島海峡の場合は深夜に輻輳時間帯を迎えるが、その継続時間は高々2〜3時間程度である。また、あとに述べることとなるが、避航操船の質あるいは量が交通環境評価のための重要な要素となることに対し、実態観測データから避航行動を明確に抽出することが困難である。
以上の観点から、船舶輻輳時間帯の交通実態を比較的長時間に渡って模擬・再現し、規範化された行動により各船舶の意図も抽出し易いデータを取得するため、海上交通流シミュレーションを実行した。

 

(1)シミュレーションの範囲と航行経路帯
図?−6−1および図?−6−2には、海上交通流シミュレーションの適用範囲と、左側通航時および右側通航時の航行経路帯の設定状況を示した。これらは、実態観測から得られた航跡に重畳して作成したものであるが、実態観測データが欠如する部分については、凡その目的地等へ直航するような経路として推定補完した。
基本的に各船舶は、航行経路帯の中を正規分布(±1σ)に従った広がり(バラ付き)を持って航行するが、陸岸への接近危険がない海域で他船との衝突危険が存在する場合には、変針避航操船により、航行経路帯から逸脱することも起こり得る(言わばソフトな制約条件となっている)。
試算評価結果として後述することにもなるが、燧灘方面にのみ船舶交通の起終点を持

 

 

 

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