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基準局は広島大学工学部ビルの屋上に設置した。船上の移動局の配置は図?−4−33に示すとおりで、船首に1局、船尾に3局を配置した。船尾の3局は1辺が12mの正三角形になるように配置して、ヒールの計測も可能にするように配慮した。無線に関しては、北側、広島寄りの海域では基準局から数kmまでしか電波が届かないのに対して、南側では20km程度離れていても通信が出来るなど、方向によって小電力無線のデータ通信装置の作動の状況が変わり、原因は明確にはできなかった。
表?−4−3に実施した試験項目を示す。本船は2軸2航船であり、試験は通常の操縦状態のように2朝2舵を連動して操縦する形で実施したものの他に、片舵機のみを使用した場合の試験を追加した。試験結果から、横方向の加速度や旋回角加速度が求められると、その方向の力とモーメントが分かることになるが、これは船体運動による成分と操舵等の操作手段に依存する成分からなる。この船体運動による成分は旋回による成分と横流れによる成分の和であるから、両成分の分離が必要になる。ところが通常の試験では、旋回と横流れがほとんど比例した形で生じるために両成分の分離が難しい。本船の場合、2軸2航船であるから、同じ旋回を両舷機を使う場合と片舵機で行う場合とでは、両軸間のモーメントが効いて、横流れと旋回の異なった組み合わせが得られると期待される。この差を利用して、横方向の力や旋回モーメントを旋回の成分と横流れの成分とに分離しようという意図でこのような試験を実施した。
さて、この試験の解析は目下、鋭意進行中であり、最終結果を得る段階には至っていないので、若干の結果を利用して試験結果と解析の様子を紹介する。以下の計算は全て重心位置、重心回りについて行っている。
図?−4−34は両舷機による10°Z試験の結果である。舵角、翼角、旋回角速度、角加速度、縦方向速度、同加速度、横方向速度、同加速度、の結果、およびそれらの結果から求めた船全体に作用している縦方向と横方向の力、旋回モーメントが示されている。この算定には速度の微分が必要になるが、この目的のために理想フィルタの考えによる微分+ローパスフィルタを設計して使用した、このフィルタは鋭い遮断特性と通過成分に対する位相歪みがないことに特徴づけられ、精度良い加速度の算定に役立つ。また力の算定に用いる付加質量係数は元良チャートより推定した。
図?−4−35は片舵機による10°Z試験の同様な解析結果である。この場合には左舷機のみがスラストを出しており、舵が効いているのに対して、右舷機は逆転状態におかれており、左舷機による右旋回モーメントが大きく効いている。図?−4−34の力と比較すると、明らかに左右非対称性が大きくなっていることがわかる。図?−4−36に示す両試験時の回頭角速度と横移動速度との関係を見ると、左右対称で両舷機によるZ試験では両者はほとんど比例しているのに対して、左舷機のみの場合では相当に違った関係になっていることがわかる。
船に作用する力とモーメントは運動による成分と操作による成分に分けられる。操作による成分は左右操舵時の差等から比較的容易に求められるから、残る運動による成分を求め、これを旋回と横移動による成分に分離しようと考えている訳である。この解析は初めての試みでもあり、結果を得るにはしばらく時間が必要になるので、次年度に報告することにしたい。

 

 

 

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