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流速変化を表現する方法で近似しているから、ローカルな潮流の細かい変化が取り入れられていないようにも見える。しかし、このような差が潮流影響としてどの程度まで現れるかを知ることは、潮流下の操船シミュレーションにおいて、どの程度まで詳しい分布情報が必要かを考える参考資料になると考えられる。
「通峡航路」
専門家の意見から通峡時の一応のコースラインを設計して、それ上を航行することを目標として制御する。場所的に潮流の変化がある場合には、通過コースの位置次第で影響の受け方が違うことになる。そこで、目標とするコースラインから外れて航行する場合の潮流影響の変化を把握するために、理想としたコースラインから左右に100m偏したコースラインも計算の対象とした。
「制御則」
制御則の選択には、一般的な制御装置である人間の特性に似たモデルを導入するという考え方もできる。人間の操縦はコースから一定以上に外れると制御のゲインを上げ、原コース復帰を強めるという非線形な特性等が現れるのが通例である。また、潮流影響が強くなると、ゲインを上げて偏位が過大にならないように操縦するから、操船結果に潮流影響の差が現れにくいというのも人間の特徴となる。
簡単な線形制御の場合、影響が強ければその分だけ、偏位も大きくなると期待され、航法による潮流影響の違いを考察するという、今回の研究目的には好都合と言える。そこで、操船者の判断に馴染みやすいように、あるいは評価を考えやすいように以下のような制御則を考え、航行困難度の評価と結合しやすくした。
・指定された方位を守るための方位に関する比例、微分制御の導入
・指定されたコースラインを維持するために、船長の2倍先のコースライン上の点に向首するような位置制御の導入

 

4.2.2 潮流影響のシミュレーション結果
潮流影響を把握するために、今回は2つの方法で推定計算を実施した。その第一の方法は、目標とするコースライン上を船が直進している場合の船に作用する縦横方向の力と重心周りのモーメントを計算することである。この結果は所定のコースライン上で船が受ける潮流影響自体であると言うこともできる。潮流力の大きさは船の大きさや船速によって違い、それをキャンセルするための舵力も同様な要素に支配されるから、その値から直ちに操船の難易の判断は難しい。このような場合、船首方位の制御が第一義的であるところから、潮流によるモーメントに着目して、そのモーメントを丁度、キャンセルするような舵角の値を求めると、釣り合いという意味での船首方位を保つに要する制御量を与えることになるから、潮流の影響を簡潔に評価するのに役立つ。しかし、実際の制御は動的であり、時々刻々と釣り合いを保っているわけではないから、実際の操船時の操舵量とは意味が違うことには注意いただきたい。また、横方向の力を同時にキャンセルするわけではないから、この際にも横流れ運動の発達は避けられないことになる。したがって、保針の難易を考える一応の目安と考える必要がある。

 

 

 

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